セクハラに悩んだら

ご存知のように、相手の意思に反した性的な嫌がらせが、セクハラです。セクハラは職場や学校などの私たちの身近な場所で日常的に起きるケースが多いとされています。職場や学校は、ほぼ毎日のように通ったり、多くの時間を過ごしたりするため、はっきりと拒絶できないところがあり、知らず知らずのうちに被害者は耐えてしまいがちです。中には、重大な犯罪ともいえるセクハラ行為も存在します。「性」というプライバシーな部分に関わるため、外部や周囲に相談するには勇気が必要なのです。そもそもセクハラの定義や内容はどうなっているのでしょうか。その類型や具体的な言動、被害に遭ったときの対処法について、ご紹介していきます。

セクハラの現状 セクハラとは セクハラの種類 対処法

セクハラの現状

セクシュアルハラスメントに関する相談が最も多く、次いで婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いに関する相談が多くなっているというデータが都道府県労働局雇用環境・均等部(室)から出されています。「セクシャルハラスメント(セクハラ)」という言葉は、1989(平成元)年にが新語・流行語大賞の新語部門金賞を受賞し、世間に広く知れ渡るようになりましたが、その約30年後の平成28年度の調査においても、相談件数21,050件のうち7,526件(35.8%)と相変わらずセクシュアルハラスメントに関する相談が1位のようです(引用、参考:平成28年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況~ 男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パートタイム労働法に関する相談、是正指導、紛争解決の援助の状況を取りまとめ ~)
最近の傾向としては、女性だけでなく男性もジェンダーハラスメント(男のくせに、とか、男だったら、など固定的な性差概念<ジェンダー>にもとづいた差別や嫌がらせ)などで苦しむ人が増えているようです。

セクハラとは何か

世間では、性別によるさまざまな振る舞いが求められる傾向があります。セクハラは、社会的な権力を利用し相手の意思に反して行われる、性的な暴力や嫌がらせです。社会的な権力が振りかざされやすい場所、職場、学校、就職活動の際などに起こる場合が多いです。上司から部下、教員から学生、先輩から後輩、採用担当者から学生、といったように強い立場にある側から弱い立場にある相手側に対し、遠慮なく、時には冗談めかしてセクハラが行われるケースが多いといわれています。

それでは、どこからがセクハラになるのでしょうか?恋愛経験や結婚についての詮索、性的な噂を流すなど、基本的に相手の意思に反して行う場合は、すべてセクハラ発言に該当するとされているようです。そのため嫌がっているにも関わらず、性的なポスターを見せたり、性的な行動を強要したりする行為は、(訴えられるかどうかは別にして)セクハラといえます。

セクハラは男女ともに被害を受けている人がいると言われていますが、やはり女性のほうが多いです。それは、かつて特に高度成長期時代の職場において、女性は仕事上の仲間というよりは、しばしば性的な対象(結婚相手)として見られる風潮があったことに関係しています。男女ともに「女性の労働は結婚までの腰かけ」という意識があったから、職場においては女性は男性の従属的な立場にあったといえます。もちろん女性の社会進出が常識となった現在では、そのような考え方は化石に近い考え方ですが。他にも周囲に相談したり、嫌だという事実を伝えにくかったりする現状もあるといわれています。セクハラが嫌だと相談をしても「一方的な妄想や勘違いでは?」「誘惑したのはあなた」「危機管理がなっていないからだ」などの暴言を受けるケースも珍しくありません。このように、被害者側の落ち度や責任を問われるために、一人で被害を抱え込み、精神的に不安が拡大していきます。

また、性被害は周囲も似た環境にいる場合やそうではない場合も含め、誰も味方してくれないことが多いようです。その理由として社会的権力が働いていることや、被害を受けているにも関わらず性という極めてプライベートな領域に口を挟むのを避けるため「我関せず」や「見て見ぬふり」をする人が多いことを挙げられるでしょう。

このようにセクハラ被害者は、セクハラをうけたことがキッカケで周囲への不信感も高まるといわれており、ひどい孤立感に襲われる方も多くいるようです。セクハラは職場におけるパワハラにも該当し、被害者の権利を精神的に侵害していきます。強い立場から行われることが多いと言われているセクハラは、心理的に被害者を追い詰め、精神疾患の病気を発症させる恐れがあります。女性の場合だと男性恐怖症や対人恐怖症、婦人科の障害を発症し、被害者は後々まで心身への影響に苦しむこともあります。意思に反していても、人権侵害されている事実や屈辱感を認めたくないなどの理由で、被害者本人が気づかないふりをしてしまうケースも大変多いです。

セクハラにはどんな種類がある?

職場におけるセクハラは、事業主が措置を考えるよう義務付けられています(参考:あなたの義務です!!_厚生労働省)。セクハラと認められる行為は、対価型と環境型に分類されています。

1.対価型
対価型は、権力を利用しているところが特徴とされています。要求を受け入れなければ相手に不利益をもたらす、と性的関係を強要します。職場での労働条件や、商取引と引き替えに性の差し出しを要求されるのです。拒否した場合は配置転換や、解雇、減給処分されるなどの強迫性をともなっています。「断れば出世できないだろう」と、相手が断りにくい状況と知っていて行う、卑劣なセクハラです。性的な要求の内容には、愛人契約などもあるといわれています。相手より上位にいる立場を利用して、執拗にデートに誘ったり、交際を迫ったりするのも対価型の特徴です。

セクハラで定義づけられる職場とは、通常業務を行っている場所だけではありません。取引先や出張先、取材先や打ち合わせをする飲食店、車内、顧客の自宅など、業務上使用する場所も含まれています。

2.環境型
環境型は、就労環境を不快にすることでその場に居づらくなるような性的発言や行動での嫌がらせなどの行為が特徴です。日常的に性的内容の噂話や卑猥な冗談、容姿や個人の恋愛事情の話題など、言われると不快になる言葉を投げかけることもこの行為の特徴です。また貞操観念や性経験の質問も含まれます。他には、性的なポスターを見えるように掲示したり、無意味な接近をしてきたり、身体的接触を行ったりする行為も特徴としてあげることができます。そのため本人は故意的に見せているつもりはなくとも、目につく場所に性的な週刊誌を置いていたり、性的な新聞を広げて読んでいたりする場合も視覚的にセクハラになってしまっているといった場合もあります。

無意味に接近したり、胸、腰や下半身に触る、抱きついたりするなどの行為は、意思に反して行われれば当然不快であり、労働環境を害するでしょう。しかし、環境によっては不快と感じていても、合わせなければ「ノリが悪い」とレッテルを貼らる側面もあります。

職場などでこのような風土を変えない限り、環境型はなかなか改善されないと言われています。企業自らがセクハラを見過ごさないように意識を高め、改革する必要があるでしょう。また、2007年には男性、2014年には性同一性障害を抱える人に対しても、企業はセクハラ行為をなくすように配慮することが義務付けられました。誰もがセクハラ加害者になる可能性があるのです。

セクハラに遭ったときの対処法

心と体は正直です。不快な感情を抑圧すると、自分でも気づかない内に心身に傷を残してしまいます。そのためセクハラを受けている場合は我慢せずに、セクハラを止めさせるように、行動を起こすことが大切です。

1.証拠を集めて会社に相談
事業者には、セクハラ相談を受ける義務があります。雇用管理上の体制を配慮するなど、事業者は措置を考えなければならないのです。会社に相談するときは、内容証明郵便で伝えるなど、なかったことにされない手段で確実に行うといいでしょう。手紙のあて名や差出人、日付、内容を郵便局が証明してくれるため、後々も有効な証拠となります。

証拠集めは、権利を主張するために大変重要です。レコーダーの音声記録や動画、メールや手紙の他にも、「いつ・どこで・誰が・どんな言動をとったか」という被害の記録は自分を守ってくれます。

2.労働局に相談
会社が何の措置も考えてくれない場合は、労働局に相談しましょう(参考:こころの耳ー専門相談機関・相談窓口_厚生労働省)。労働局では、相談窓口の他に、無料で被害者と会社との紛争解決を行っており、労働局側から是正案を出すこともできます。もし会社が労働局の勧告に従わなければ、企業名が公表されます。しかし、企業は簡単にセクハラと認めない可能性もあるようです。

3.弁護士などの専門家に相談
集めた証拠を整理し、弁護士など法律の専門家に相談することも可能です。会社や加害者に法的責任を問いましょう。セクハラと認められる行為は、民事上の不法行為に当たるとして、事業者は損害賠償責任を負う義務があります。セクハラの判決事例は多く、裁判所で示談によって解決する手段は珍しくありません。慰謝料の相場は、セクハラ被害の悪質性や期間、強い上下関係にあるかどうかによって異なり、強姦や強制わいせつのケースでは100万円単位になることもあるようです。

退職に至った、精神疾患を発症したなどの影響も考慮されます。弁護士などの代理人が間に入ってくれるため、加害者と連絡を取り合わなくても訴えることは可能です。セクハラ問題は、客観的事実が曖昧にならないためにも、早期発見、早期解決が大切です。身近な人にも相談し、証人になってもらうのもいいようです。

男女雇用機会均等法ができてから長い年月が経っているにもかかわらず、職場での性的な嫌がらせは未だに残っています。対価型や環境型は、上下関係の権力が根強い職場で起きやすいです。拒絶することを恐れずに、性や自尊心を侵害されないよう、自分の身を守りましょう。また、自分が気づかないうちに加害者になっている可能性もあります。「このぐらいは許容されるはず」と、一方的に性の話題や身体的接触を行わないよう、気を付けましょう。親しみを込めたつもりでも、相手が不快と感じればセクハラになるのです。

記事 メンタルヘルスコンディショニング講座講師・佐々木幹

佐々木幹

佐々木幹メンタルヘルスコンディショナーⓇ

投稿者プロフィール

株式会社スマイルエデュケーション3代表取締役

大手民間スクールで約30年間スクール経営に携わり、販売マーケティングを皮切りに、商品開発室、教務室、学務室、通信教育センターの各部門責任者を歴任

現在は、自身が企画したメンタルヘルスコンディショニング通信講座の資格(メンタルヘルスコンディショナー)を取得し、「Live」「Love」「Smile」をかけ合わせた造語『LiLoveS』をコンセプトとしたハッピーライフカウンセリング協会と、学ぶすべての方の笑顔を目指すSmileCom(スマイルコム)のスクール運営を行う一方で、当サイト(メンタルヘルス情報サイト)の記事執筆を手掛けている。

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https://smile-learn.com/product/

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コメント

    • たいち
    • 2019年 4月 16日

    なるほど。注意してはいるけど、自分がいつ加害者になるかはわからないですね。
    参考になりました。

    • 佐々木幹
      • 佐々木幹
      • 2019年 5月 14日

      たいち様

      投稿ありがとうございます。
      接触以外のセクハラ(言葉、メール、SNS、態度)とジェンダーハラスメントは、なかなか難しい問題だと思います。

    • ゆーこ
    • 2019年 8月 09日

    わたしは何を言われてもあまりセクハラと感じないタイプの人間で、セクハラとは無縁だと思っていたのですが、男性に対してのジェンダーハラスメントとかも問題になっているのですね。無意識のうちにそういったことをやって自分が加害者側にならないように気を付けたいと思います。

    • 佐々木幹
      • 佐々木幹
      • 2019年 8月 09日

      ゆーこさん

      投稿ありがとうございます。
      セクハラの問題が難しいのは、「被害者の感覚が、セクハラかどうかを判断する」ということで、客観的な基準がないことです。
      私もフランクな会話を好んでましたが、数年前から気をつけています。フランクな会話で円滑なコミュニケーションっていうのが自己満足だと気づいたからです。
      ジェンダーに対しては、ゆーこさんが言われるように気を付けたいという意識があるだけで、十分だと思います。だって外見からはその人がジェンダーかどうかわかりませんし・・・

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