家族関係のストレスについて
- 2017/12/9
- ストレスについて
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1960年代までの日本では、家族といえば、2世代3世代が同居する大家族は珍しくなく、お盆やお正月には親戚が一堂に会し、一緒にお墓参りをしたり、餅つきをしたりなどを家族で過ごすといった光景がそこかしこで見られていました。
それが高度経済成長の進展とともに、都市部から徐々に核家族化が進み、バブルが崩壊した1990年代(65歳以上の高齢者人口と0才から14歳までの子供人口がほぼ同数になった時代)には少子高齢化問題が声高に言われるようになり、核家族をモデルとした戦後家族が、崩壊・変容しはじめ、あらためて家族のあり方が模索されています。
情報伝達スピードなどテクノロジーの進化やバブル崩壊による社会的価値観の変化など、さまざまな社会現象の中で、家庭内では親子間の対立や不法行為、身体的虐待、心理的虐待、介護放棄等が恒常的にニュースで流れるようになっていき、「機能不全家族」「家族崩壊」が深刻な事態と称されるようになりました。
家族関係のストレスを抱える人が急増している実態を捉えて、解決がとても困難といわれるさまざまな問題を少しでも検証し、少しでもその傾向と対策の役に立てればと思います。
様々な家族関係のトラブル | 子どもが大人になる発達過程 | 家庭内トラブルの特徴 | 家族のメンタル不調に備えるには |
様々な家族関係のトラブル
ひとことで家族関係のトラブルといっても、「子供の非行」や「夫婦の離婚問題」といった様々な時代背景の中で生み出されたものもあれば、「相続問題」のように時代を超えて脈々と家族関係を脅かし続けてきたものもあります。
2014年に実施された、日本法規情報・法律問題意識調査レポート「深刻化する親族間トラブル意識調査」によると3人に1人の人は、家族間・親族間トラブルで悩んでいる、もしくはストレスを感じています。さらに、その中でも金銭・相続・介護の問題は、家族間・親族間のトラブルの中でも半数以上を占めています。これらの問題はいわゆる大人の社会でのトラブルであり、なぜそのような大人が形成されてしまったのか、その生い立ちにも目を向けるべきなのかもしれません。
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アンケート調査の結果によるトラブルの原因の順序は次のとおりです。
1位:「金銭問題」27%
2位:「相続問題」15%
3位:「介護問題」14%
以下、「仕事(収入・職種・就職・転職等)の問題」11%、「離婚問題」11%、「嫁姑問題」10%、「病気」7%、「育児に関しての価値観の違い」5%
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子どもが大人になる発達過程
家族間の問題として「機能不全家族」や「家族崩壊」といわれる家庭内で育った子供の、ストレスによる精神面への悪影響が指摘される場合があります。この機能不全家族という言葉は、人間総合科学大学客員教授の西尾 和美氏の1999年著作『機能不全家族―「親」になりきれない親たち』で有名になった言葉だと思いますが、一般的に機能不全家族とは、子育てや一家団欒、地域との関わりといった、もともと家庭に存在すべきものが、健全に機能していない状態をさしているようです。
機能不全家族という環境の中で育った子どもは、ありのままの自分を受け入れられる場所を知ることがなかったということのようであり、子どものころは、無条件に自分の存在を否定される、あるいは条件つきでないと認められない体験は、自分はダメだという自己否定感や自分は価値がなく何もできないという自己不全感を抱かせ、本来の自分は存在してはならないという「見捨てられた不安」が、得体の知れぬ恐怖を大人になっても、もたらし続けるとのことです。
この結果、社会と健全な関係を築くことができない大人になってしまうのです。こう考えると、家庭環境こそが、家族関係のトラブルの一因を担っているといわざるを得ません。ただ、間違えてはいけないのは、機能不全家族に生まれ育ったひとが、全て社会不適応な人間になるとは限りませんし、逆に、たとえ健全といわれる家庭で育ち、社会と良好な関係を築いている場合においても、家族関係のトラブルからストレスを感じている人も少なくありません。実に難しい解が求めにくい問題と言えます。
ここで、当サイトの「発達心理学とは?」という記事で記述していますが、発達心理学者E・H・エリクソンの発達理論をみてみましょう。エリクソンの発達理論には、8つの発達段階はあります。
(1)乳児期に始まり (2)初期幼児期, (3)遊戯期, (4)学童期, (5)青年期, (6)成人前期, (7)成人期, (8)老年期が続きます。ここで、人間が人格を形成し社会的に順応するうえで各段階において達成すべき課題を「発達課題」と呼びます。発達課題が達成されれば次の段階へ成長しますが、達成できなかった時は心の問題が生じます。例えば(5)青年期の際の発達課題は「アイデンティティの確立」ですが、課題が達成できなかった場合は「アイデンティティの拡散」という心の問題が生じるとされています。
機能不全家族は、8割の家族が機能不全の要素を含んでいると分析する人もいるらしく、どこの家族にもあることかもしれません。
家庭内トラブルの特徴
家族関係においてのトラブルの特徴としてあげられるのは、身内の恥だからという理由から、第三者に相談できなかったり、問題を先延ばしにして回避したり、放置してしまう傾向が強いということです。この種の問題は、放置しておく期間が長くなるほど関係者が増える、親族が代替わりするなどして、問題の修復がさらに難しくなる傾向があります。家族間問題であると軽視することで、大きなトラブルに発展するケースもあります。
トラブルが起こった場合は、問題が解決されるまでの間、当事者の生活が不安定になりがちで、大きなストレスを抱えることにもなりかねません。ストレスを軽減する観点からも、客観的な判断を仰ぐという意味でも、第三者を介入させることが有効になる場合があります。家族問題だからと躊躇せず、早い段階で専門家に相談することを検討してもよいかもしれません。
最初の相談窓口としては、当サイトのリンク集でも紹介させていただいている、一般社団法人社会医学系専門医協会:全国保健所長会が良いと思います。
精神保健福祉センター都道府県別の相談機関
家族のメンタル不調に備えるには
家族は、一緒に暮らしていると長い時間をともに過ごすわけですから、そのうちの誰かがストレスを抱えて、イライラしたり意気消沈していると、周りの人も巻き込まれたり気を遣ったりで、家庭がくつろぎの場でなくなってしまいます。話を聞いたり相談することで解決できるような問題であれば、深刻になる必要もないのですが、家族関係が崩壊してしまうような大きなトラブルを抱えていたり、解決するのに時間を要するような場合には、なにかしらの効果的な手段を講じないといけません。
・やはり大切なのは話を聞くこと
冷静に話しあえる場をもって、ストレスの原因となっているものの正体を正確に認知することが大切です。その上で、トラブルの原因はなんなのか、最終的にどうしたいのかを聞いてみるのも、解決に結びつくヒントになるかもしれません。ストレス原因の中には解決が難しい問題もあります。すぐに解決しない場合でも、しっかり話しを聞いてもらえた上で、自分の言うことに共感してくれる人を見つけられると、ストレスはかなり軽減されるものです。
・話を聞くポイント
自分と意見が違う場合でも、まずは共感してあげることです。これは家族に限ったことではなく、友人や会社の同僚などから相談を持ち掛けられた場合でも同じことが言えますが、ストレスやトラブルで悩んでいる人に対しては、相手の話に「甘え」や「わがまま」が感じられても、まずは苦しんでいる相手へいたわりの言葉をかけ、次に共感してあげることがとても大切です。そうして相手(相談者)の心を軽くしてあげてから、相手の置かれている立場や相手の意見を客観的に反復してあげるのです。相手のストレスやトラブルを客観化してみせることで、相談者自身が解決方法にたどり着けるようにしてあげるのがベストです。アドバイスをする場合でも、「一般的には」とか「たとえば、こんな場合は」など、答えを決めつけることなくやんわりとアドバイスしてあげるのがコツです。
また、家庭内や家族関係でストレスがたまって疲れている時には、趣味の関連した人との交流やコミュニティを持つなど、家庭以外に居場所を求めることも有効です。家族とは別の人間関係を築くことで、リフレッシュできストレス解消につながります。
その他、家族関係に深刻な不仲があって、家族と一緒に暮らしていくことにあまりにもストレスを感じるのなら、思い切って家から出て一人暮らしを考えてみるのも間違いではありません。経済的に自立することは容易でないことも少なくありませんが、目標を持つことで目先が変わって、今まで感じていたものがストレスに感じなくなるという効果もあります。
環境を変えてみる、非日常を体験してみるなど、お医者さんにかからなくても、自分たちでできるストレス解消法は無限にあります。ストレス解消法は人それぞれですので、まずはストレスのメカニズムを知るところから始めてみるのをおススメします。
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40~64歳の中高年のひきこもりが61万人もいて、15~39歳の54万人を上回っているという記事が、
日経新聞に掲載されていました。中高年ひきこもり61万人 内閣府が初調査 ますます複雑で解決が難しい家族問題が今の日本を取り巻いています。
(当該箇所は2019年6月5日に追記)
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家族関係のトラブルは、前もってある程度の予想が立てられるものもあれば、突然巻き込まれる場合もあります。家庭が抱える問題は、十人十色で、その関係性もトラブルの内容もそれぞれ違っています。幸せそうに見えていても、中ではいがみ合っていたり、悩みに押しつぶされそうになっている場合もあります。
「家族だから、そのうち分かり合える」とか、「子供だから、親が面倒を見るのは当然だ」とか、当たり前だと思っていたことが覆されて、より深刻なトラブルに発展するのは家族関係だからこそ、深みに嵌ってしまうのでしょう。トラブルによるストレスから、家族や自分自身を守る意味でも、その当たり前を変える勇気を持つべきなのかもしれません。
記事 メンタルヘルスコンディショニング講座講師・佐々木幹
コメント
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個人的に家族関係のトラブルは夫婦間や親から子供への影響によるストレスなどが多いのだとばかり思っていました。しかしこの記事に子供の非行や相続問題という例も出されていてなるほどと感じました。
つい先日、引きこもりで家庭内暴力をしていた子供に対して、いつか身内以外の人にも迷惑をかけるかもしれないと考えた親が自分の子供を刺し殺す事件がありましたが、これも自分の子供だから親である自分が何とかしなくてはという気持ちからより深刻なトラブルに発展してしまったのかなーと思います。家族間の問題は人に相談しづらいところもありますし、意識していても家族だからこそストレスから抜け出すことは難しいこともあると思います。深刻な問題になる前に家族関係でのトラブルに対して相談しやすい環境や制度があれば良いのにと感じます。
さかたさん
投稿ありがとうございます。
さかたさんのおっしゃるように家族問題は人に相談しづらいところがあります。
とくに先日の事件のように、社会的地位が高ければ高いほど相談しづらい問題だろうと推測してしまいます。
しかしトラブルが起こった時に、互いに自己の主張ばかりを戦わせていても問題解決しない!ということから弁護士やカウンセラーといった客観的な第三者が活躍する職業が生まれたのだろうと思います。
殺人に比べれば第三者への相談などたやすいことではないでしょうか。
親のことが苦手だけど、育ててもらったのに苦手だなんて薄情者なのかもしれないと悩む友人がいました。
血がつながっているからこそ嫌いにはなりづらいですし縁も切りづらいですよね。無理していっしょにいる必要はないのでは?とアドバイスをしたのですが、まだ悩んでいるようです。今度そういった相談を聞くときにはこの記事で紹介されていた話を聞くコツなどを意識してアドバイスできればと思います。
たけちゃんさん
投稿ありがとうございます。
ぜひ客観的なアドバイスをお友だちにしてあげて欲しいと思います。
1つだけ注意して欲しいのは、お友だちの親をお友だちと一緒に非難することは絶対にやめて欲しいということです。いろいろな家族の形があるので絶対とは言えませんが、親をあまり好きでない子供も、やはり心のどこかで親に甘えています。「うちの親はほんとバカ」と友達が言ったとき、「ほんと君の親はバカ」なんて言ったら、絶対にムカつかれます。
家族についての相談を受けた時は、その家族についてはあまりコメントせず、相談者のお友だち本人に対してのみ、アドバイスしてあげて欲しいと思います。
お返事ありがとうございます!
また、アドバイスするときの注意点もご教授くださりありがとうございます。
たけちゃんさん
こちらこそ、いつも投稿いただきありがとうございます。
引き続き、よろしくお願いいたします。