「健康経営」とメンタルヘルス対策

あなたの会社はあなたの健康維持・増進を配慮してくれていますか?
あなたは経営者として従業員の健康維持・増進を経営戦略として実施していますか?
「従業員の健康の維持・増進の取り組みが従業員の意欲や生産性を向上させ、結果的に企業の業績向上や組織としての価値向上へと繋がる」という考え方をもとに、従業員の健康管理を経営戦略の一環として実践する「健康経営(注1)」が近年、求められています。
※(注1)健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標

健康経営について ストレスチェック制度 健康経営のための社員研修例 メンタルケア対策

健康経営について

「健康経営」の思想のはじまりは1992年にアメリカで出版された「The Healthy Company」の著者である経営心理学者ロバート・ローゼン博士が「健康な従業員こそが収益性の高い会社をつくる」という「ヘルシーカンパニー思想」を提唱したことが始まりとされています。
ヘルシーカンパニーの概念を実践している企業は、「高い業績を上げる従業員」と「ストレスに強い従業員」は企業の資産とされ、従業員の健康を維持するためにあらゆる努力し、これを支援するための労働条件と経営方針を策定しています。
一方、ヘルシーカンパニーの概念を実践していない企業は、従業員の尊厳を無視し「人」をモノや機械の部品としか認知できなく、従業員の健康保持増進と生産性との関連を考えていません。その結果、従業員が不健康になり、生産性が落ち休職や退職した場合は新規採用費用など不要な時間やコストを発生させています。
個人の健康は「自己管理」で「自己責任」とされ、不健康な従業員は個人の意思の弱さなどとされることが少なくありません。しかし、不規則な食生活、運動不足、飲酒等の生活習慣は実は個人の問題よりも、1日24時間のうち3分の1以上を費やす職場環境や人間関係に影響を受けているというのが現状です。
ローゼン博士は組織内の従業員の健康を損ねる危険因子として「ストレスの多い労働条件」「統制あるいは参画の欠如」「職場における緊張した人間関係」「キャリア開発の道が閉ざされていること」「不明瞭な業務上の役割」「変化に対して後手に回る管理」「家族と余暇に時間がさけないことに対する葛藤」の七つを上げています。

経済産業省では、現役時代の多くの時間を過ごす職場で、個人が健康維持・増進に取り組むための環境づくりとして「健康経営」の普及に力を入れています。
2014年の経済産業省の報告によると、企業の健康関連コストの割合は、医療費が15.7%、病欠・病気休業を指す「アブセンティーズム」によるコストは4.4%であるのに対し、「プレゼンティーズム」によるコストは77.9%を占めていました。
プレゼンティーズムとは従業員が職場に出勤しているものの、なんらかの健康上の問題によって業務の生産性が低下している状況のことを指します。
また、近年大きな問題になっているメンタルヘルス不調の他、アレルギーや偏頭痛、さらには生活習慣病等による業務能率の低下についてはすでに多くの研究がされ問題視されています。

「健康経営」を推進するには、経営者が社内外に経営理念として発信し、従業員等の健康状態の把握と健康維持・増進するための体制を整備しなければなりません。
生活習慣病、メンタルヘルス対策、長時間残業対策、企業のリスクマネジメントの視点から、そして「人を大切にする」に視点をおいた教育・研修を実施していくことが重要です。
健康経営では、そうした取り組みに必要な経費は単なる「コスト」ではなく、将来に向けた「投資(健康投資)」であるととらえています。

経済産業省の取り組みとして、2015年3月から東京証券取引所と共同で上業企業を対象に「健康経営銘柄」の選定を実施しました。
選定された企業は学生を中心にホワイト企業と呼ばれ、想像以上のインパクトを与えました。
また健康経営度調査の評価結果上位20%の企業の株価時価総額を見ると、TOPIX(東証株価指数)を上回る水準で推移しており、健康経営銘柄2017選定企業についても、TOPIX平均を上回る水準で推移しています。
生産性向上、企業のイメージアップ、人材確保の必要性から、健康経営への取り組みは今後も加速することでしょう。

ストレスチェック制度

 

2015年の12月以降、従業員50人以上の事業所では、「ストレスチェック制度」によって、法律で定められたストレスチェックを毎年1回の実施が義務づけられました。
従業員50人未満の事業所ではストレスチェックの実施は努力義務とされていますが、実施する場合は法令に従って実施する必要があります。
健康経営優良法人2018の認定基準においては、制度従業員50人以上のでは「制度・施策実行」の項目で選択用件になっており、従業員50人未満の事業所では「法令遵守・リスクマネジメント」の項目において必須要件となっています。
ストレスチェック制度は、従業員のストレスの程度を把握し、従業員自身のストレスへの気付きを促すとともに職場改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることによって従業員がメンタルヘルス不調となることを予防することを主な目的としています。
ストレスチェックの実施は法令、指針に従って実施します。厚生労働省が配布している「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」、「ストレスチェック制度導入ガイド」に従います。
「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」
「ストレスチェック制度導入ガイド」

健康経営のための社員研修例-ストレスチェックとマインドフルネス研修-

 

近年、長時間労働削減、相談体制の確立、復職支援といったネガティブな面への対処ではなく、会社や従業員の強みを活かして、いきいきと働けるよう対策を推進していくというポジティブ心理学(注2)やワーク・エンゲージメント(注3)の考え方が注目されています。
※(注2)マーティン・セリグマン氏が1998年に心理学会の会長に選任された際に新しい領域として開始。個人や社会を繁栄させるような強みや長所を研究する心理学の一分野。
※(注3)オランダのユトレヒト大学のウィルマ―・B・シャウフェリ教授によって提唱。仕事に対して「熱意」「没頭」「活力」の3つが揃い積極的で充実した状態が重要

米国のグーグル社ではSIY(サーチ・インサイド・ユアセルフ)というマインドフルネス瞑想を取り入れた社員研修を行い、ストレスの耐性アップ、生産性の向上、想像力のアップに繋げています。このマインドフルネス瞑想の研修はインテル、フェイスブック、ゴールドマンサックスなどアメリカの企業で導入され、近年、日本の企業でも導入されています。
飲食店運営企業(注4)は健康経営の一環として社員研修でマインドフルネス研修を導入し、研修前後にストレスチェックできるアプリのココロ炉(注5)を使用してセルフケアをサポートしています。
(注4)株式会社ファイブグループ(健康経営の広場より)
(注5)WINフロンティア株式会社(COCOLOLOについて)

セルフケアによるメンタルケア対策

ストレスのまったくない職場はありませんが、日々のストレスに対処するか、ストレスを蓄積させないかは、各人のストレスのとらえ方によって異なります。
ストレスの原因が加わると私たちの体はストレス反応が起こります。
ヘルスケア問題を解決する方法のひとつとして、自分自身で行うケアがあり、これをセルフケアといいます。セルフケアについては「心の健康づくりを推進するためには、労働者自身がストレスに気づき、これに対処する知識、方法を身につけ、それを実施することが重要である」(厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」)とされています。
ストレスに対するセルフケアとしては労働安全衛生法にもとづき職場で実施されるストレスチェックの結果の活用も一つの方法ですが、近年、スマートフォンアプリを利用して各人でストレスや睡眠の質などチェックし管理できる時代になりました。
長期間ストレス状態を放置すると重度の心身症を引き起こすこともあります。そのような場合は専門医へ受診が必要ですが、そうなる前にセルフケアをサポートすることも健康経営を推進する上で大切でしょう。

参考書籍:健康経営推進ガイド(著者:岡田邦夫)
社員の健康が経営に効く(古井祐司)
健康経営実務必携(著者:稲田耕平、阿藤通明、坂野祐輔)
経営戦略としての健康経営「企業の健康対策の実務」(労務行政研究所(編))
参考サイト:「健康経営の推進するためのコラボヘルスガイドライン」

高橋 晶子

高橋 晶子メンタルヘルスコンディショナー

投稿者プロフィール

株式会社COKIA代表(健康、経営、生活関連のコンサルティング事業)、マインドフルネストレーナー

19歳の時、難病を発症し生活が一変。
24時間点滴、絶食という入院生活を経験し、痛みがないこと、食事ができること、歩いて移動ができることなど日常あたりまえのことに幸せを感じ健康の有難さを実感する。

海外生活(オーストラリアとカナダ)がきっかけとなり持病が好転。
ボランティア(老人ホームや障がい者の施設)、レースクイーン、バックパッカー、ファームステイ(農業)、広告代理店、旅行会社、商社、IT、金融etcを経験し、ベンチャー企業に就職後、ペット事業で独立。

経験を含め、自分のためにインプットしてきたことが人の役に立っていることに喜びを感じる機会が増え、メンタルヘルスコンディショナーの資格を取得。
また、学生時代の心理学の授業では学ばなかったポジティブ心理学とマインドフルネスに出会いマインドフルネストレーナーとなる。
これまで以上にココロとカラダの健康にアンテナをはりアウトプットしていきたい。

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