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職場のストレスと精神障害
- 2019/1/24
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「精神障害による労災補償状況」:厚生労働省から平成29年度「過労死等の労災補償状況」が公表されました。仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害の状況について請求件数は1,732件で前年度比146件の増となり、うち未遂を含む自殺件数は前年度比23件増の221件でした。支給決定件数は506件で前年度比8件の増となり、うち未遂を含む自殺の件数は前年度比14件増の98件でした。
業種別では、請求件数は「医療,福祉」313件、「製造業」308件、「卸売業,小売業」232件の順に多く、支給決定件数は「製造業」87件、「医療,福祉」82件、「卸売業,小売業」65件の順に多くなっています。
職種別では、請求件数は「専門的・技術的職業従事者」429件、「事務従事者」329件、「販売従事者」225件の順に多く、支給決定件数は「専門的・技術的職業従事者」130件、「サービス職業従事者」70件、「事務従事者」66件の順に多くなっています。
年齢別では、請求件数は「40~49歳」522件、「30~39歳」446件、「20~29歳」363件、支給決定件数は「40~49歳」158件、「30~39歳」131件、「20~29歳」114件の順で幅広い年代で請求、支給決定がなされています。
ストレスによる精神障害の発病 | 職場におけるストレス要因 | 職場以外のストレス要因 | 精神障害とは | 精神障害の発病を防ぐには |
ストレスによる精神障害の発病
このように労災として請求・支給決定されているだけでもかなりの数の件数があり、増加傾向、自殺の件数も非常に多くあります。職場のストレスと精神障害の発病にはどのような関係があるのでしょうか。そのメカニズムについては米国国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health: NIOSH)が「NIOSH職業性ストレスモデル」として次のように説明しています。
まず、「職場におけるストレス要因」があり、次に「ストレス反応」が起こります。ストレス反応が解消されれば良いのですが、ストレス反応が持続すると、「精神障害」へと至ります。この時、同じストレス要因があっても、ストレス反応が起きる人と、起きない人が出てきます。この違いは3つの要因として説明されます。
個人要因:遺伝、性格、ストレス処理能力、経験など
職場以外のストレス要因:家族、異性関係や友人関係、経済問題等
緩和要因:上司や同僚、友人の支援など
「職場におけるストレス要因」に「個人要因」、「職場以外のストレス要因」が加われば発症の危険が高まりますし、周囲のサポート「緩和要因」がしっかりあれば発症を未然に防げる可能性が高まります。
職場におけるストレス要因
職場におけるストレス要因としてはどのようなものがあるのでしょうか。厚生労働省により、「心理的負荷による精神障害の認定基準」に類型化され、出来事と心理的負荷の程度として示されているので、いくつか紹介します。こうした出来事が程度により、ストレス要因になることが具体的にわかるので、業務の見直し等に活用すると良いでしょう。
<達成困難なノルマが課された>
ノルマの内容、困難性、強制の程度、達成できなかった場合の影響、ペナルティの有無
その後の業務内容・業務量の程度、職場の人間関係等
<顧客や取引先から無理な注文を受けた>
顧客・取引先の重要性、要求の内容等
事後対応の困難性等
<会社で起きた事故、事件について、責任を問われた>
事故、事件の内容、関与・責任 の程度、社会的反響の大きさ等
ペナルティの有無及び程度、責任追及の程度、事後対応の困難性等
<大きな説明会や公式の場での発表を強いられた>
説明会等の規模、業務内容 と発表内容のギャップ、強要、責任、事前準備の程度等
職場以外のストレス要因
職場以外のストレス要因としてはどのようなものがあるのでしょうか。こちらも厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」で「業務以外の心理的負荷評価表」としてまとめられているので、このような出来事があった時は、業務には変化がなくても、不調につながる危険が高まるので周囲からのサポートを強化することが大切です。一部を紹介します。
<自分以外の家族・ 親族の出来事>
配偶者や子供、親又は兄弟が死亡した
配偶者や子供が重い病気やケガをした
親類の誰かで世間的にまずいことをした人が出た
親族とのつきあいで困ったり、辛い思いをしたことがあった
親が重い病気やケガをした
家族が婚約した又はその話が具体化した
子供の入試・進学があった又は子供が受験勉強を始めた
親子の不和、子供の問題行動、非行があった
家族が増えた(子供が産まれた)又は減った(子供が独立して家を離れた)
配偶者が仕事を始めた又は辞めた
精神障害とは
労災認定において精神障害は国際疾病分類(ICD-10)によって「精神および行動の障害」に分類されるものを言います。労災認定はこの分類に該当するものを対象としますが、F0(認知症・頭部外傷など)、F1(アルコール、薬物によるもの)は精神障害による労災認定基準から除外されています。また、業務と関連して発病する可能性が高いのはF2、F3、F4とされているので、職場ではそれらの発病を防ぐ取り組みが重要になります。
F0 : 症状性を含む器質性精神障害
F1 : 精神作用物質使用による精神および行動の障害
F2 : 統合失調症、統合失調型障害および妄想性障害
F3 : 気分(感情)障害
F4 : 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
F5 : 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
F6 : 成人のパーソナリティおよび行動の障害
F7 : 精神遅滞(知的障害)
F8 : 心理的発達の障害
F9 : 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害、特定不能の精神障害
精神障害の発病を防ぐには
NIOSH職業性ストレスモデルを活用すると、精神障害の発症を防いでいく方法を考えていくことができます。
職場におけるストレス要因を減らす
何がストレス要因になるかは「心理的負荷による精神障害の認定基準」が参考になりますし、職場改善の進め方や事例などは厚生労働省の「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」を参考にすることができます。
職場以外のストレス要因をサポートする
社員の変化に気づいたり、仕事以外の悩みも気軽に相談できるような「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」が有効です。詳しくは当サイトの別記事「職場のメンタルヘルス」をご覧ください。
個人要因と緩和要因をサポートする
「セルフケア」で個人のストレス対処能力を高めたり、コミュニケーション能力を高めて緩和要因を活用できるようにすることが重要です。また、「ラインによるケア」も緩和要因として機能することが期待されます。
精神障害による労災事案の発生は、企業にとって働き手の休職や周囲の負担増加、イメージダウンなど非常に痛手となります。経営者は強い意志と覚悟を持って取り組むことが必須ですし、誰もが当事者になり得ることなので、一人一人の社員が自分ごとと捉えてできることから始めていくことが大切です。職場のストレスによる自殺者を出すことがないように、お互いに干渉するのではなく、温かい関心を持ち、必要な時に手を差し伸べられるような組織文化を作っていきましょう。
『参考資料・サイト』
厚生労働省 心理的負荷による精神障害の認定基準
厚生労働省 精神障害の労災認定
厚生労働省 平成29年度「過労死等の労災補償状況」
厚生労働省 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル
「精神障害の労災認定のしくみ」 財団法人 労災保険情報センター
記事 メンタルヘルスコンディショナー・白石真樹
コメント
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色々な要因がストレスにつながるということが分かりました。
やはり精神障害の発病を予防するための周りの環境が大切になるんだなあと思いました。
自分でも予防できることはやっていきたいです。
忠さん
投稿ありがとうございます。
この記事はメンタルヘルスコンディショナーの白石さんが厚労省の資料などを分析してまとめてくださいました。
記事の最後に「職場のストレスによる自殺者を出すことがないように・・・」と書いてくださっていますが、まさに少しだけでもストレスや精神障害に関する知識があるだけで救われる命がある。と思っていますので、小さな力ではありますがメンタルヘルスに関する知識を広めていけたらと思っております。
減少傾向にあるとはいえ、日本人の自殺者は18.5人(10万人中)もいます。
<参考>
国の自殺率順リスト(ウィキペディア): https://bit.ly/1O9I1Sk
たびたび職場でのストレスによる自殺が報道されていますよね。有名な会社だと特に大きく報道されているようなイメージがあります。
労災って業務中の怪我とかそういうものにしか対応されないのかと思っていたのですが、精神的なことも労災になることもあるんですねー。
しょーたさん
投稿ありがとうございます。
しょーたさんのおっしゃる通り、労災は炭坑や工場で働く人達を助ける目的でできたので、当初は精神的なことは労災対象外でした。
精神障害に関する労災認定は、白石さんの記事の中でも紹介されていますが、7年くらい前から再整備されたようです。
労災の充実は安心の担保になりますが、労災なんて使わないに越したことはないですよね。