森林セラピストが語る森の癒し
- 2018/11/15
- ストレスについて
- 4 comments
日本にはお馴染みの言葉として「森林浴」という言葉があります。森林の中に身を置いて、森林の恩恵を受ける、そんなイメージですね。実はこの言葉は比較的新しく作られた言葉です。1982年当時林野庁長官だった秋山智英氏(長野県佐久市出身)が朝日新聞紙面上で「森林浴構想」を紹介したのが最初で長野県の赤沢自然林が森林浴発祥の地とされています。
森林の健康活用 | 森の効果 | 利用する人とは | なにをするのか | 利用した人の声 | 服装や持ち物など | 体験してみましょう |
日本における森林の健康活用
森林が何となく体に良い、良さそうだ、ということは知られていましたが、実際に効果があるのでしょうか。欧州に目を向けると、古くから予防療法の重要性が社会的に認識されており、特にドイツでは森林療法が古くから研究されて、「クナイプ療法」として広く利用されています。そして国民は4年に一度、健康保険の補助を受けながら、健康保養地を3週間程度訪れることができる制度が定着しているのです。
日本でもメタボリック症候群およびその予備軍増加や社会ストレス増加といった背景から、林野庁を中心に潤沢な森林資源を心身の健康に活用しようと様々な取り組みが行われ、現在では特定非営利活動法人森林セラピーソサイエティが、心身の健康に効果があると科学的に検証した森を森林セラピーが行える「森林セラピーロード」として認定しています。
森林セラピーの認定は2006年から始まり、現在では北海道から沖縄まで多くの森が認定されています。審査では、歩きやすい道路が整備されていることの他、リラックス効果の実験結果、自然・社会条件等の評価、滞在型施設面等の評価によって審議され、適否が決定します。
森が生体に与える効果
森林セラピー®️は「科学的エビデンスに裏付けられた森林浴効果」を意味する言葉として2003年に作られました。「セラピー」という言葉がついていますが、本来の「治療」、「療法」を意味するのではなく、高すぎる緊張状態、強すぎる交感神経活動を鎮静化させ、生理的リラックス状態をもたらすことを目指しています。その効果は様々な実証実験や研究により、「自律神経系(身体の維持に必要な基本機能)」、「内分泌系(身体機能の調整に必要なホルモンの産生)」、「免疫系(がんやウイルス、細菌から身を守る機能)」、「気分の安定」という4つの領域で確認されており、森林セラピストは五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)に働きかける森林でのプログラムを通じて、これらの領域を本来の状態に近づけていくお手伝いをしています。
森林セラピーを利用する人とは
全国各地の森林セラピー基地では地域の特色を生かしたプログラムを提供しています。私が所属している長野県佐久市では佐久市健康づくり推進課が運営母体となり、「首都圏企業のリフレッシュツアー」、「働く方のための健康増進ツアー」、「海外医療福祉視察団の体験ツアー」といった企業で働く人のためのツアーから、「親子で楽しむ森林体験」といった森へ入るための教育的企画まで行政と地域の森林セラピストが協力して多くの利用者に対応しています。
佐久市では比較的大人数で参加するプログラムが頻繁に開催されていますが、他のロードでは数日宿泊してのリトリートとしてプライベートツアーをご利用される方もいらっしゃるようです。もちろん、こうしたプライベートツアーは各ロードで受け付けています。
森林セラピーではどんなことをするのか
樹木からは生理作用のある化学物質が空気中に放出されています。そうした物質を精油などとして活用しているのが「アロマテラピー」です。森林には天然の状態の化学物質(総称してフィトンチッドと言います)が存在しているので、森林セラピストはセラピーを受ける方の心身の状態に合わせて、効果的な作用があると思われる場所にご案内してこの「フィトンチッド」をしっかり吸収できるように導いていきます。フィトンチッドを吸収できる場所でしっかりと心身を休めることを「森林安息」といい、森林セラピーにおける2つの必須プログラムのひとつです。
もうひとつの必須プログラムが「森林散策」です。歩くことはストレスの発散にとても効果的ですが、森林を歩くことで、五感に働きかける様々な自然の恩恵を同時に得ることができます。「木漏れ日のゆらぎ」、「小川のせせらぎ」、「土の香り」、「落ち葉の踏み心地」などが心身を癒していくのです。
その他にも個性豊かな地域の森林セラピストとの交流、温泉の活用、地産地消のセラピー弁当などを楽しむことによって「自然の一部であること」、「価値判断のない他者とのかかわり」など人間本来の感性と営みを再認識することで自分自身を取り戻していきます。
地域での特色として佐久市の例を紹介すると、地域健康産業とのコラボレーションが行政主導で行われ、センサー開発企業での歩行計測と改善、ウォーキングポール製造販売企業でのポールウォーキング指導など実績のある健康増進企画を定期的に行っています。
佐久市森林セラピーPR動画の中では実際の森林セラピーの様子をご覧いただくことができますので、ぜひご覧ください。きっとイメージが掴めると思います。
<佐久市チャンネル 信州佐久市癒しの森~healing~>
森林セラピーを利用した人の声
森林セラピーを体験してもらう際には、前後のメディカルチェックと事後の振り返りの時間を取り、心身の状態がどう変化するのかを確認していきます。(これは各セラピーロードや担当セラピストによってやり方が違います)
メディカルチェックについては心身の調子についての聴き取り、血圧、心拍数、唾液中アミラーゼ量、心理検査POMS2®️、ココロを測るスマホアプリCOCOLOLOなどで行います。ロードによっては自律神経を測定する専門装置を保有している場合や医療機関と連携して、より専門的に行う場合などもあります。
事後の振り返りでは「気持ちがスッキリして元気になった」、「森の中で寝そべることが初めての経験で、思った以上にリラックスできた」、「木や葉の香り、虫の声、木漏れ日などが心地よかった」、「思った以上にストレス解消に効果があると感じた」など、効果を実感された感想が語られています。
森へ入る時の服装や持ち物など
認定された森林セラピーロードは歩きやすいように整備されていることがほとんどですが、服装や持ち物など気をつけたいことはいくつかあります。
歩きやすい靴
登山靴などは不要ですが、舗装路ではありませんので、滑りにくく、歩きやすいものが安全です。
長袖、長ズボン
虫刺されや日焼け防止のため、肌の露出は避けましょう。靴下も肌が出ないように短いものは避けましょう。黒い服装は蜂に刺されやすいと言われていますので、あまりお勧めできません。
季節、天候に応じた防寒着、手袋
標高の高い場所、日陰は思っている以上に気温が低いことがあります。寒さに震えるようでは折角の森を楽しめませんので、時期によっては暖かい服装や手袋の用意もしましょう。ハンドタオルも1枚持っていると首に巻いたり、横になる時枕がわりにしたり、色々便利だと思います。
飲み物
夏は熱中症対策も必要になる場合があります。木陰が少ないロードでは特に注意しましょう。一度森に入ると飲み物を入手するのは難しいので、準備しておきましょう。森を歩くとき、手が塞がっていると歩きにくかったり、転倒の際危険なことがあります。ペットボトルや水筒はリュックなどに入れて両手は空けておくことをお勧めします。また、森の中に安全な水場がある場合もありますが、小川の水などは上流に動物の死骸や糞があると非常に危険です。安全が確認されている場合以外は綺麗そうに見えても川の水は飲まないようにしましょう。
まずは森林セラピーを体験してみましょう
各地の森林セラピーロードでは、気軽に体験できるモニターツアー企画や個人向けプライベートツアーの受付などを行っていますので、森林セラピーソサイエティのホームページを見て、興味を持ったロードを訪ねてみるのが良いでしょう。
<森林セラピーソサイエティホームページ 森林セラピー総合サイト>
地域の特色を活かした様々な取り組みをそれぞれの森林セラピーロードで行っているので、各地を訪ね歩くのも楽しいですし、四季折々の変化を感じるために時期を変えて同じ森林セラピーロードに行ってみると新しい発見があります。冬季閉鎖されてしまうロードもありますが、スノーシューを使って雪の森を歩くツアーを開催しているロードもあります。白い静寂の森を歩くのもとても素晴らしい体験になると思います。
2時間の森林セラピーによる健康増進効果は約1ヶ月継続するという実験結果もありますので、月に一度癒しの森を訪ねてみる習慣を作ってみてはいかがでしょうか。
記事 メンタルヘルスコンディショナー・白石真樹
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
自然が多い場所に行くと癒されますが、森林の中だとさらに癒されてストレスが軽減されるイメージがあります。
森林セラピーに必要な持ち物など詳しく書いてあって参考になりました。森林セラピーやってみようと思います。
sakataさん
投稿ありがとうございます。
ぜひ森林セラピーをお試しください。
元同僚で、今も良く話をさせてもらっている小野なぎささんという方が運営されている「森と未来」https://www.fwithf.org/
いろいろな活動をされていますが、ご家族で参加されても、お一人で参加されても、癒されること間違いなしです。
だいたい、昼食付で3,000円くらいが多いかな?
ちなみにこのコメントのことは小野さん知りませんし、もちろん私も1円ももらってません。念のため・・・(笑)
上京してくる前は、実家が山の中というか結構田舎にあったので、自然に囲まれた生活をしていたなあということを思い出しました。
近くのコンビニまで30分かかるので不便ではありましたが、今よりもイライラとかストレスを感じることは少なかったかも。
久々に実家に帰って家の周りを歩いたら良いストレス発散になるかも。
yumiさん
投稿ありがとうございます。
私はたぶんyumiさんより田舎の鳥取出身ですが、徒歩30分圏内に山歩き歩道みたいなところがありました。
yumiさんの田舎がどちらなのかわかりませんが、都会コンプレックスがあった私は、次の言葉に救われたことを今でも覚えています。
「故郷(田舎)がある人がうらやましい。何かあると故郷に帰ろかなと言えるから。自分は東京生まれ(江戸っ子?)なので、帰るべき故郷がない。ほんとに故郷がある人がうらやましい。」
久々に帰郷されるとき、お友だちも招待してお家の周りを散策されてはいかがでしょうか?