求められる睡眠の改善

この記事を読まれている皆さんは睡眠を十分に、そして質良く取れていますか?
睡眠は脳の機能さらに身体の機能を健常に保つために必要不可欠であり、生活の質を向上させるための基本となる役割を担っています。

睡眠の世界的危機 睡眠とはどのような状態か レム睡眠とノンレム睡眠 眠りの流れ 眠調節機能 眠らせる脳と眠る脳 睡眠による生体修復 睡眠セルフチェック

世界的に広がる睡眠の危機

現代社会では、私たちは仕事や依存的ともいえるスマートフォン・パソコン等の使用時間を重視するあまり、睡眠を軽視し、犠牲にしてきたともいえます。そのために深刻な睡眠障害が世界的に増加し、苦しんでいる人も大勢います。

厚生労働省 平成29年「国民健康・栄養調査」[1]によると、次のような日本人の睡眠の状況がわかります。

1日の平均睡眠時間は6時間以上7時間未満の割合が最も高く、男性35.0%、女性 33.4%
6時間未満の者の割合は、男性36.1%、女性42.1%で、男女とも40歳代で最も高い
ここ1ヶ月間、睡眠で休養が十分にとれていない者の割合は20.2%
睡眠で休養が十分にとれていない者は平成29年が21.9%で、平成24年の16.3%から大きく増えている

日本ではかねてより睡眠についての課題が社会問題になってきましたが、アジアの国々でも最近になって睡眠と睡眠障害に対する関心が急速に高まり、ここ数年間に中国、韓国、インド、香港、タイ、イスラエルで、自国の睡眠学会があいついで創設されています。その背景には、工業化に伴って睡眠環境が悪化しつつあることや睡眠習慣が先進工業国共通のパターンとなって、睡眠障害が激増していることが指摘されています。

睡眠とはどのような状態か

みかけでわかる状態としては、まぶたが閉じられること、首の筋肉が緩み、頭がうなだれたり左右前後に揺れだしたりし、しだいに深い眠りに入ると、身体を支えることがむずかしくなって眠りの姿勢(通常は横になる)をとります。このように基準的な行動から判断できる睡眠状態を行動睡眠といいます。
より正確に睡眠と覚醒を区別するためには脳波測定が用いられています。ベータ波アルファ波、シグマ波、シータ波、デルタ波などの脳波の成分をもとに睡眠か覚醒か判断した状態を脳波睡眠といいます。

レム睡眠とノンレム睡眠

人間などの生物は脳波睡眠がレム睡眠とノンレム睡眠に別れ、それぞれが異なる役割を分担しながら睡眠状態を構成しています。
レム睡眠とは、急速眼球運動(REM:rapid eye movement)が起こる状態で、まぶたの下で眼球が素早く動きます。体はぐったりしているのに、脳は覚醒に近い状態になっていて夢を見ていることが多い眠りです。
ノンレム睡眠とは、レム睡眠でない眠りという意味で、浅いまどろみの状態から、ぐっすり熟睡している状態まで、脳波をもとに4段階(睡眠段階1-4)に分けることができます。
ノンレム睡眠は大脳を鎮静化するための眠り、レム睡眠は大脳を活性化するための眠りといわれ、それぞれが補い合い、必要な役割を担っています。

一晩の眠りの流れ

健康な成人では、ノンレム睡眠とレム睡眠がセットになって約1.5時間ずつ繰り返されます。
最初の2セット(約3時間)では深いノンレム睡眠が出現するので、眠りについてからの3時間を安心・集中して眠れる環境づくりが睡眠の質を高めるために必要です。
その後は浅いノンレム睡眠とレム睡眠の組み合わせになるので、寝入ってから4.5時間、6時間、7.5時間後に起きるようにすると、スッキリ目覚めることができます。
自分の睡眠状態や周期などを知るためにはFitbitなどの活動量計を利用することができます。身につけているだけで、複数のセンサーが睡眠や運動の様子などを自動で記録し、アプリで確認することができるので、睡眠改善に役立てることができます。

Fitbitメーカーサイト

2つの睡眠調節機能

<サーカディアン(概日)性の調節方式>
脳内に存在する生物時計で1日の周期を調整する機能です。生物時計の信号で脳は眠気を発生させています。
ただし、人の生物時計の1日は、正確な24時間でなく約25時間なので、環境のリズムに合わせて無意識のうちに生物時計をリセットしています。生物時計を正常に機能させるためには、規則正しい生活が重要になります。

<ホメオスタシス性の調節方式>
睡眠不足量をもとに、次の眠りの質と量を調整する機能です。眠らない時間が続くと、睡眠不足量に応じて睡眠の質と量的にも大きく変化し、睡眠不足の埋め合わせをしていきます。
過去の睡眠不足から質と量が調整されるので、寝溜めはできません。深い眠りは事前の不足分に対して出現するので、必要以上にたくさん眠れば、その分だけ次は質の悪い浅い眠りばかりになるので、かえって調子を崩してしまいます。

眠らせる脳と眠る脳

脳には「眠る脳」と「眠らせる脳」が部位によって存在しています。眠る脳とは、脳の中で最も新しい部位である大脳です。大脳が眠ることで、大脳が支配する全身の部位に睡眠状態が現れます。眠らせる脳は、2種類の睡眠(ノンレム睡眠とレム睡眠)を2つの睡眠調節機能(サーカディアン性とホメオスタシス性)で調整していきます。
また、調整方法にもニューロン活動にもとづく神経機構と睡眠物質にもとづく液性機構の2種類があります。レム睡眠の神経中枢は古い脳のなかでもより古い中脳、橋、延髄に、またノンレム睡眠の神経中枢は古い脳のなかでもより新しい視床下部が主体となって神経回路を持ち、睡眠と覚醒に関する信号を出しています。睡眠物質は数十も確認されていて、多種多様に作用します。睡眠物質は、睡眠欲求の高い状態で脳内あるいは体液内に出現して睡眠をひきおこしたり、維持させる物質の総称です。

睡眠による生体修復

睡眠物質はさらに、ニューロンの過剰な活動によって生じる細胞毒を解毒して、細胞膜の傷害や細胞死を防ぐとともに、過度の学習および記憶を抑制するという脳を守る働きを持つことも解明されてきています。また、成長ホルモンは生体を構築したり修復したりするために重要なホルモンですが、特定の睡眠物質と同時に熟睡状態に分泌されます。熟睡状態を利用して、自己の保守点検や成長を定期的に実行しています。ウイルスや細菌に感染すると、免疫が機能し、発熱とノンレム睡眠を誘発します。感染後に出現する眠りは、生体防御や免疫増強に重要な役目を担っているのです。ところが、ストレス状態では睡眠を抑制する副腎皮質刺激ホルモン分泌され、不眠がおこってしまいます。この状態が長く続くと、生体の修復機能や免疫の機能が正常に働かないことに繋がるので、ストレス対処と睡眠の質・量を維持することはとても大切なのです。

睡眠障害が心配な方のためのセルフチェック

アステラス製薬株式会社とサノフィ株式会社ウェブサイト「快眠推進倶楽部」で睡眠に関する医学的な情報を提供しています。
不眠に関するチェックとしては、世界保健機関(WHO)が中心になって設立した「睡眠と健康に関する世界プロジェクト」によるアテネ不眠尺度[2]が世界共通の不眠症判定法になっています。この「快眠推進倶楽部」ではアテネ不眠尺度でのチェックができますので、最近よく眠れない、睡眠の質が悪い、といった悩みのある方はお試しください。

快眠推進倶楽部 眠りの状態チェックシート

『参考資料・サイト』
[1] 厚生労働省 平成29年「国民健康・栄養調査」
[2] アテネ不眠尺度(AIS)(Soldatos et al.: Journal of Psychosomatic Research 48:555-560, 2000)
(参考資料)
日本睡眠学会 睡眠科学の基礎 井上 昌次郎(前・東京医科歯科大学生体材料工学研究所)

記事 メンタルヘルスコンディショナー・白石真樹

白石 真樹

白石 真樹メンタルヘルスコンディショナー®

投稿者プロフィール

白石 真樹 メンタルヘルスコンディショナー®
株式会社Tree of Heart 健康経営総合コンサルティング事業他

<主な保有資格>
国家資格キャリアコンサルタント、産業カウンセラー
診療放射線技師、健康経営アドバイザー、森林セラピスト
日本ボディリズム®マネジメント協会認定上級インストラクター、他

<主な役職等>
ジョブカフェ信州就業支援地域アドバイザー
長野県中小企業支援センター専門家(雇用対策、人材育成・従業員教育)
一般社団法人日本ボディリズム®マネジメント協会顧問・事務局
一般社団法人SST普及協会南関東支部世話人
特定非営利活動法人日本キャリア開発協会長野地区副地区長、他

<活動内容>
医療機関勤務、就労支援、組織開発コンサルティングなどの経験を経て、心身の健康向上の専門家として健康経営の推進・優良法人認定をサポートしています。

・自律神経を整える呼吸法研修
・心の安定のためのマインドフルネス研修
・内省による組織風土改善研修
・社会生活技能訓練(SST)
・教職員のコミュニケーション指導研修
・学生のキャリア教育、就職支援

上記のような研修を企業、労働組合、地方自治体、学校、その他の依頼で多数行なっています。

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コメント

    • fumu
    • 2019年 3月 25日

    ほー、でもよく考えたら現代で生きていると中々十分な睡眠てとれないよね。

    • 佐々木幹
      • 佐々木幹
      • 2019年 5月 19日

      fumuさん

      投稿ありがとうございます。
      おっしゃり通り、すべての人に平等な時間(1日24時間)ですが、仕事や遊びの流れでついつい睡眠を犠牲にしたりしますよね。
      私もずぼらなので良眠のために特に何もしていませんが、寝る前のデジタルデトックスだけは守るようにしてます。
      よろしければこちらの記事もご参照ください。
      『不規則な生活から身を守るには』
      https://mentalhealthjoho.com/stress-mechanism/106.html

    • はせ
    • 2019年 7月 04日

    サービス業でシフト制の仕事のため、生活リズムが不規則になってしまい睡眠不足になることが多いです。
    さらに寝る前にスマートフォンを見てしまってさらに寝る時間を短くしてしまったりしています。まず寝る前のスマホ断ちから始めてみようと思います。

    • 佐々木幹
      • 佐々木幹
      • 2019年 7月 04日

      はせさん

      投稿ありがとうございます。
      サービス業でシフト制ということは、夜勤などもされているのでしょうか?
      現代社会では病院やコンビニなどで20%弱の方々が夜も働いてくれており、安心で快適な社会を作っていただいているのですが、夜勤で働く当のご本人は、どうしても生活が不規則になり睡眠不足からカラダの不調を招くこともあります。寝る前のスマホ断ちはとても良いことだとされており、多くの医師がデジタルデトックスの効用について語っています。
      夜勤はなかなか改善方法がないのですが、もしよろしければ当サイトの別記事「不規則な生活から身を守るには」もご参照ください。https://mentalhealthjoho.com/stress-mechanism/106.html

    • くりた
    • 2019年 7月 29日

    最近よく眠れなくて、真夜中になっても眠れずやっと寝られたと思ったら朝ということがよくあります。
    休みの日に睡眠不足を解消するかのように一日中寝てしまい、そうすると生活リズムが崩れ良くないことも分かっているのですが、普段夜が眠れない原因がわからないため眠れるときに寝るしかなく困ってます。
    リンクで貼られていた眠りの状態チェックシートをまずはやってみます。

    • 佐々木幹
      • 佐々木幹
      • 2019年 7月 30日

      くりたさん

      投稿ありがとうございます。
      今は特に熱帯夜が到来してますので、ますます良眠が得られにくい環境ですよね。
      状況がひどければ病院で相談!ももちろん良いのですが、考えすぎないことも大切です。
      眠りのチェックシートは簡単にできるので便利ですが、結果コメントはやや脅し気味のようにも感じますので、気にしすぎないようにして下さいね。

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