SSTを学んでみませんか

SSTは“Social Skills Training”の略で、日本では「社会的スキル訓練」、「ソーシャルスキル(ズ)・トレーニング」、あるいは頭文字を取って「エスエスティ」と呼ばれています。また、精神科領域では、「(社会)生活技能訓練」と呼ばれています。

SSTとは SSTの歴史 SSTの利用者 SSTを学ぶ 新しい時代のエンパワードSST

SSTとは

認知行動療法・行動療法の一つの技法として位置付けられて1994年4月に精神科を標榜している保険医療機関において入院加療者を対象として「入院生活技能訓練療法」が診療報酬化されました。対人関係を中心とするソーシャルスキルのほか、服薬自己管理・症状自己管理などの疾病自己管理スキルを高める方法がスキルパッケージとして開発されています。
そして現在では、精神科領域だけでなく、教育領域、就労支援関連領域、司法矯正領域、職場のメンタルヘルス(産業領域)など、さまざまな領域で実践されています。また、家庭や職場への訪問など、地域生活者の現場での支援も行われています。
SSTは希望志向であり、精神障害をもつ人たちをはじめ、支援を必要とするあらゆる方の希望に基づいた支援方法です。自己対処能力を高め(エンパワメント)、一人ひとりのリカバリーを目指して、SSTが広く活用されることが期待されています。
一般社団法人 SST普及協会ホームページより(一部加筆)

SSTは実際には次のような流れで行います。

1.本人がどうなりたいか目標設定する
2.今日練習する対人スキルを決める(「上手に断る」、「頼みごとをする」など)
3.具体的な場面を作っていつも通りにやってみる
4.より効果的なやり方を考え、必要ならお手本を見る
5.実行できる自信がつくまで繰り返し練習する
6.日時等を定めて実行する
7.うまくできたか、振り返りをし、有効なスキルを定着させる

また、SSTを行う際には、当事者が社会生活の中で困っている問題をトレーニング担当者が正確に把握・評価し(アセスメントと言います)、本人が主体的に問題解決するためのトレーニングを行なっていきます。アセスメントには行動理論・学習理論と呼ばれる理論体系に基づき「行動分析」を行うことが非常に有効とされています。1)

SSTの歴史

SSTの起源は1958年代のウォルピによる「自己主張訓練」とされ、その後1970年代にリバーマンらによって「対人的効果訓練」、そして「社会的自立生活技能の獲得」として確立され、1988年のリバーマン来日により、日本での普及が開始されました。リバーマンの手法は行動療法の様々な要素を一つの練習パッケージとしてまとめたもので、「基本訓練モデル」と言われています。また、2000年代にはべラックによる「ステップ・バイ・ステップ方式」のSSTも日本で紹介されるようになり、身に付けたい技能を「ステップ」という行動要素に分解してトレーニングを行う方法も展開されています。

どのような方がSSTを利用しているのか

もともとは統合失調症を患う方のためのプログラムでしたが、現在では学校で生徒たちが円滑に学校生活を行うため・将来社会に出るためのコミュニケーショントレーニングとして行われたり、職業訓練の中で求職者の方がビジネススキルを向上させたり、職場の人間関係を作っていくための準備として行うなど、医療以外の場所でも広くトレーニングが行われるようになってきています。
また、社会生活で困りごとを抱える人のトレーニングとしてだけでなく、「悩んでいる人にどうやって声をかけるか」という、周囲の人の「かかわる力を高める」プログラムとしても行われるようになってきています。
具体的には群馬県こころの健康センターが「こころの元気サポーター養成講座」として群馬県内の高校等で生徒や教職員を対象に人の悩みを受け止め、その人が自ら悩みを減らしていくのを手助けするための講座を開催しています。

詳しい様子は群馬県こころの健康センターの所報に掲載されています。
2015年度 こころの健康センター所報(第27号)

こうした取り組みは若者の自殺予防にも大変重要で、自殺対策の事業としても位置付けられています。誰かが困っていても、「どう声をかけたらいいか」、「どうかかわったら良いか」を知らないと、大切な声がけのチャンスを逃してしまうかもしれないのです。普段から「そんな時、どう行動するか」を練習しておくことはとても効果的なのです。

SSTを学ぶ

SSTの実施形態としては、複数名の参加者が一緒にそれぞれの課題のトレーニングを行う「グループSST」と参加者一人だけの「個人SST」があります。いずれも基本は一緒ですが、グループの場合は他人の様子から学んだり、色々な意見をもらえたりします。ただし、グループで行うとなると日時場所が限定されてしまうので、個人SSTも必要な時にすぐ行えるのでどちらも非常に重要です。SSTのトレーニングを担当する人をSSTリーダーと呼びます。
SSTは一般社団法人 SST普及協会の講座を受講することで学ぶことができます。
理論や基本訓練モデルを中心に学ぶSST初級リーダー養成10時間研修を受講することで、実際の進め方を学び、リーダー体験をすることができます。
実際にSSTを始めてみると様々な疑問や、うまくいかないこともたくさん出てきます。そうしたことの解決のヒントは中級研修を受けることで見つけることができます。SST普及協会各支部では「医師のためのSST研修」、「訪問サービスのためのSST研修」、「メンタルヘルスに生かすSST研修」など様々な専門的な研修も行なっていますので、初級10時間研修受講後に必要な研修を受講するのが良いでしょう。
一般社団法人 SST普及協会ホームページ

新しい時代のエンパワードSST

2018年7月に開催されたSST全国経験交流ワークショップin Tokyoでは、テーマが「新しい時代のエンパワードSST」と設定されました。これは、時代とともに進化する様々な心理療法を取り入れ、多様な手法を組込み発展するSST(エンパワードSST、e-SST)を目指していくというメッセージです。
これからの時代をますます元気にしていくSSTを学ぶことは身近な人を助けるだけでなく、自分自身のコミュニケーション力を高め、より人とつながっていくことにもなります。ぜひ、SSTに関心を持ち、学んでみましょう。

『参考資料・サイト』
1) SSTテクニカルマスター: リーダーのためのトレーニングワークブック p16
監修 舳松克代 編集代表 小山徹平
金剛出版, 2010

記事 メンタルヘルスコンディショナー・白石真樹

白石 真樹

白石 真樹メンタルヘルスコンディショナー®

投稿者プロフィール

白石 真樹 メンタルヘルスコンディショナー®
株式会社Tree of Heart 健康経営総合コンサルティング事業他

<主な保有資格>
国家資格キャリアコンサルタント、産業カウンセラー
診療放射線技師、健康経営アドバイザー、森林セラピスト
日本ボディリズム®マネジメント協会認定上級インストラクター、他

<主な役職等>
ジョブカフェ信州就業支援地域アドバイザー
長野県中小企業支援センター専門家(雇用対策、人材育成・従業員教育)
一般社団法人日本ボディリズム®マネジメント協会顧問・事務局
一般社団法人SST普及協会南関東支部世話人
特定非営利活動法人日本キャリア開発協会長野地区副地区長、他

<活動内容>
医療機関勤務、就労支援、組織開発コンサルティングなどの経験を経て、心身の健康向上の専門家として健康経営の推進・優良法人認定をサポートしています。

・自律神経を整える呼吸法研修
・心の安定のためのマインドフルネス研修
・内省による組織風土改善研修
・社会生活技能訓練(SST)
・教職員のコミュニケーション指導研修
・学生のキャリア教育、就職支援

上記のような研修を企業、労働組合、地方自治体、学校、その他の依頼で多数行なっています。

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コメント

    • 柴犬
    • 2019年 5月 28日

    SSTは初めて聞いたけど、医療以外の場所でも行こなわれているものということに驚きました。自分も自己主張という点で、断れなかったり自分の意見を言えなかったりで問題を感じているので、SSTを学んでみたいなと感じました。

    • 佐々木幹
      • 佐々木幹
      • 2019年 5月 28日

      柴犬さん

      投稿ありがとうございます。
      実は私も白石さんの記事で初めて知りました。SSTも奥が深そうです。
      入会(個人年会費:3,000円)しても残念ながらSSTの研修は都度費用がかかるようですが、医師や看護師の所属人数が多いSST協会で学ぶことは、専門知識が得られる以外に、良質な人的ネットワークの広がりも期待できるかもしれません。

    • まっすー
    • 2019年 7月 09日

    SSTは知らなかったけど、こういうトレーニングは知らないだけで求めてる人は多そう。
    もっと気軽に利用できれば広まっていきそうだなー。
    若者の自殺予防にも重要とのことで、学校とかが取り入れたら良さそう。もう取り入れてるところとかもあるのかな?

    • 佐々木幹
      • 佐々木幹
      • 2019年 7月 09日

      まっすーさん

      投稿ありがとうございます。
      そうですよねー。広めるためには”気軽さ”は必須でしょうね。
      学校と自治体が連携して、SSTを展開している例もありますので、SSTはこれから!という感じですね。

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