ヘルスリテラシーを高めて健康に生きる

人生100年時代と言われ、生き方、働き方が従来と大きく変化していくことが予想されています。公的年金の受給についても現政権首相は総裁選の討論会において「生涯現役であれば、70歳を超えても受給開始年齢を選択可能にしていく。そういう仕組みをつくりたい」と訴えています。

健康の定義 ヘルスリテラシーとは 健康リスク 3つの段階 教育の進め方 特定健診・特定保健指導 ストレスチェック制度

健康の定義とヘルスリテラシー

「生涯現役で元気に活躍したい」こうした想いは誰にでもあるのだと思いますが、健康とはいったいどのような状態を指すのでしょうか。
WHO憲章では、その前文の中で「健康」について、次のように定義しています。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity[1].

健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)
そんな中、社会では健康格差の拡大が問題になっています。「肉体的」・「精神的」・「社会的」に満たされている人、そうでない人の差はどうして生まれてしまうのでしょうか。
健康の社会的決定要因(SDH Social Determinants of Health)は、所得、教育、就業、生活環境、社会環境等が含まれるとされています[2]。健康格差を無くしていき、すべての人々が満たされ、より良い人生を送っていくためには、健康に関する情報力「ヘルスリテラシー」を高めていくことが重要になるのです。働く人の健康については労働基準法施行規則によって、「騒音による難聴」、「粉じんによる呼吸器疾患」、「振動による運動器疾患」などが「職業病」として定義されていますが[3]、メンタル不調や生活習慣病など、もっと身近で誰にでも起こり得る疾患に対して十分な知識を持ち、しっかりと対策していく必要があります。

ヘルスリテラシーとは

WHOのヘルスプロモーション用語集において、ヘルスリテラシーは次のように定義しています。
Health literacy
Health literacy represents the cognitive and social skills which determine the motivation and ability of individuals to gain access to, understand and use information in ways which promote and maintain good health[4].

ここには「健康についての情報にアクセス、理解、使うことができる能力やモチベーション」ということが記され、健康についての情報を活用できる能力と考えることができます。近年ではITの進歩に伴いITリテラシー(情報技術を使いこなす力)が求められてきましたが、これからの時代は健康に関する情報を使いこなす時代になっていくことが予想されます。

ヘルスリテラシーの低さが健康に及ぼすこと

ヘルスリテラシーが低いと、健康診断で異常が見つかっても精密検査を受けなかったり、自覚症状がないといって、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の治療を開始しないことが考えられます。生活習慣病を放置したばかりに、脳卒中や心筋梗塞など重大な疾患を患う方も少なくありません。
心の病気についても同様で、うつの初期症状に本人や家族、職場の上司・同僚が気づかず、うつ病まで進行して休職が必要になったり、最悪の場合自死につながることもあります。
また、インターネット上には科学的根拠の乏しい情報や、無責任に拡散される誤った情報が溢れています。そうした誤った情報によって健康被害を引き起こす可能性も否めません。慢性疾患患者の約20.6%がサプリメント、健康食品などの利用で体調悪化の副作用経験があるとの研究報告がされています。さらに、副作用経験者のうちヘルスリテラシーが低い群は症状を主治医に報告せず、体調悪化の原因となる代替医療を継続利用していることも同時に報告され、へルスリテラシーは,代替医療による副作用への適切な対処,主治医への報告など,代替医療の安全な利用に重要であることが示唆されています[5]。
代替医療等の利用にあたって、注意すべき点などは厚生労働省「統合医療」情報発信サイトで詳しく知ることができます。
厚生労働省「統合医療」に係る情報発信等推進事業 「統合医療」情報発信サイト

ヘルスリテラシーの3つの段階

ヘルスリテラシーには3つの段階があります[6]。

第1「機能的ヘルスリテラシー」
健康に関する言葉を理解する基本的な能力です。この能力が低いと医師の説明が本当は分かっていなくても、質問できず、分かったふりをしてしまうことなどが考えられます。

第2「伝達的ヘルスリテラシー」
情報を自分で探したり、他人に伝達したり、自分で適用しようとする能力です。これは「自分でそうしたいと思った時に、それができる」能力です。しかし、そもそも、健康に関する情報にあまり関心がない人もいますから、「伝達的ヘルスリテラシー」では、「できる・できない」だけでなく、それに「関心があるか・ないか」も併せて考えてみる必要があります。

第3「批判的ヘルスリテラシー」
得られた情報をうのみにせず、批判的に吟味し、主体的に活用しようとする能力です。この能力が低いと、誤った情報に影響されて、かえって健康を害してしまうことがあります。

ヘルスリテラシー教育の進め方

メンタルヘルスや生活習慣病などについて、家族や職場、学校などでヘルスリテラシーを高めていく視点については、順天堂大学医学部総合診療科福田洋先生の著書に詳しく記されています[7]。

1.ヘルスリテラシーを「知る」
伝えたい相手のヘルスリテラシーの程度を知ることが必要です。

2.ヘルスリテラシーに「合わせる」
伝えたい相手のヘルスリテラシーの程度に合わせて伝え方を工夫したり、言葉をよりわかりやすいものにしていくことが必要です。

3.ヘルスリテラシーの「ハードルを下げる」
情報の理解や情報との接点のハードルを下げ、より身近なことにしていくことが必要です。

4.ヘルスリテラシーを「高める」
ヘルスリテラシーを「知る」、「合わせる」、「ハードルを下げる」の段階を十分行った上で高めるための取り組みを行うことが効果的です。

5.ヘルスリテラシーを「広める」
より多くの人が健康増進できるように、それぞれの方が啓蒙を進めていけることも重要です。この記事も社会の中でそのような機能を担えることを目指しています。

知っておきたい制度「特定健診・特定保健指導」

日本人の生活習慣の変化等により、近年、糖尿病等の生活習慣病の有病者・予備群が増加しており、それを原因とする死亡は、約6割を占めています。生活習慣病を予防するためには、バランスの取れた食生活、適度な運動習慣を身に付けること、1年に一度、健康状態を確認し、健康づくりにつなげていくことが必要です。
「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づいて平成20年4月から始まった、生活習慣病予防のための新しい健診を「特定健診」、保健指導「特定保健指導」といいます[8]。

特定健診とは
特定健診は40歳から74歳までの方を対象に、メタボリックシンドロームに着目した健診を行います。受診は加入している医療保険者を通じて行います。自営業などの方は市区町村へ、会社等へお勤めの方(被扶養者を含む)は、お勤め先が窓口になります。事業者健診(お勤め先で実施する健診)を受診されている方は、特定健診の内容を含んでいるので、新たに特定健診を受診する必要はありません。

<基本的な項目>
○質問票(服薬歴、喫煙歴等)
○身体計測(身長、体重、BMI、腹囲)
○血圧測定
○理学的検査(視診、触診、聴打診)
○検尿(尿糖、尿蛋白)
○血液検査
・脂質検査(中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール)
・血糖検査(空腹時血糖、HbA1c)
・肝機能検査(GOT,GPT,γ―GTP)

<詳細な健診の項目(一定の基準の下、医師が必要と認めた場合に実施)>
○心電図
○眼底検査
○貧血検査(赤血球、血色素量、ヘマトクリット値)

特定保健指導とは
特定健診の結果から、生活習慣病の発症リスクが高く、生活習慣の改善による生活習慣病の予防効果が多く期待できる方に対して、専門スタッフ(保健師、管理栄養士など)が生活習慣を見直すサポートをします。特定健診を受診し、生活習慣の改善が必要な方は、特定保健指導を受けましょう。

東京慈恵会医科大学附属柏病院の忽滑谷和先生によると、生活習慣病と精神障害は密接な関係があり、そのかかわり方として

1.同一の生活習慣によって生活習慣病と精神障害をきたしている
2.精神障害に罹患することで生活習慣が変容し、その結果として生活習慣病に陥る
3.生活習慣病によって直接精神障害に至る

の3つに大別され、生活習慣を是正することが、精神症状の改善につながるそうです[9]。心の健康のためにも特定健診を毎年受診し、その結果に基づいて特定保健指導を受けたり、生活改善していくようにしましょう。

知っておきたい制度「ストレスチェック制度」

ストレスチェック制度
ストレスチェック制度は、定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるものとして、労働安全衛生法に基づき、2015年12月から50人以上の事業場は義務化になりました[10]。50人未満の事業場も努力義務となっています。
ストレスチェックの結果としては次の項目が必ず通知されます。また、セルフケアについてのアドバイスや医師による面接指導の申し出方法も同時に通知するのが望ましいとされています。

1.個人のストレスプロフィール
・職場における心理的負担の原因
・心身の自覚症状
・職場における他の労働者からのサポート
2.ストレスの程度(高ストレスに該当するか)
3.医師による面接指導が必要かどうか

ストレスチェックは自身のストレス状況を知り、働き方や周囲との関係を見直したり、精神疾患の早期発見・早期治療につなげていくものですが、ヘルスリテラシーが低いと、真面目に受検しなかったり、結果についても関心を持たず、放置してしまうことになります。
検査結果を集団的に分析し、職場環境の改善につなげることによって、労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止したり、生産性を上げていくことも期待できますので、個人のレベルではなく、企業全体のヘルスリテラシーを上げていくことも重要です。

『参考文献』
「1」公益社団法人 日本WHO協会健康の定義について
「2」厚生労働科学研究費補助金地球規模保健課題推進研究事業
健康の社会的決定要因に関する研究平成25年度研究報告書
「3」労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号) 別表第一の二
「4」Don. Nutbeam, Health Promotion Glossary
「5」湯川慶子ほか 「慢性疾患患者の代替医療による副作用への対処とへルスリテラシーとの関連」(日本健康教育学会誌、2015;23:16-26)
「6」厚生労働省「統合医療」に係る情報発信等推進事業 「統合医療」情報発信サイト
「7」福田洋「ヘルスリテラシー~健康教育の新しいキーワード」(大修館書店, 2016)
「8」厚生労働省 特定健診・特定保健指導について
「9」忽滑谷和孝「生活習慣病とメンタルヘルス」(日職災医誌,62:316─321,2014)
「10」厚生労働省 ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等

記事 メンタルヘルスコンディショナー・白石真樹

白石 真樹

白石 真樹メンタルヘルスコンディショナー®

投稿者プロフィール

白石 真樹 メンタルヘルスコンディショナー®
株式会社Tree of Heart 健康経営総合コンサルティング事業他

<主な保有資格>
国家資格キャリアコンサルタント、産業カウンセラー
診療放射線技師、健康経営アドバイザー、森林セラピスト
日本ボディリズム®マネジメント協会認定上級インストラクター、他

<主な役職等>
ジョブカフェ信州就業支援地域アドバイザー
長野県中小企業支援センター専門家(雇用対策、人材育成・従業員教育)
一般社団法人日本ボディリズム®マネジメント協会顧問・事務局
一般社団法人SST普及協会南関東支部世話人
特定非営利活動法人日本キャリア開発協会長野地区副地区長、他

<活動内容>
医療機関勤務、就労支援、組織開発コンサルティングなどの経験を経て、心身の健康向上の専門家として健康経営の推進・優良法人認定をサポートしています。

・自律神経を整える呼吸法研修
・心の安定のためのマインドフルネス研修
・内省による組織風土改善研修
・社会生活技能訓練(SST)
・教職員のコミュニケーション指導研修
・学生のキャリア教育、就職支援

上記のような研修を企業、労働組合、地方自治体、学校、その他の依頼で多数行なっています。

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