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行動主義心理学ってなに?
- 2017/11/5
- メンタルヘルス 心の症状
- 4 comments
メンタルヘルスを語る上で、人間の心理について学ぶことはとても有効です。今回は心理学におけるアプローチ法の中のひとつ、行動主義心理学について解説していきます。私たちが普段用いる「行動」という言葉には、無意識的になんとなく行われる行動から、意識的に細心の注意を払って行われる行動まで、幅広い「行動」が含まれています。「行動」は他者の目に見えても、「行動」をしている人の気持ちや考えていることはわかりません。目に見えない心を行動から紐解くにはどのようにすれば良いのでしょうか。
行動主義心理学とは | 行動主義心理学の理論 | 行動療法へ |
行動主義心理学とは
動機や感情を考慮せず、目に見える行動だけに着目した心理学のことを「行動主義心理学」と言います。現在でも行動に注目した研究は世界中で行われています。意識の存在を仮定する心理学とは一見異なるような行動主義心理学は20世紀に入り広がりをみせました。
行動主義心理学が創始されたのは1912年、アメリカの比較心理学者(動物心理学者)のジョン・ワトソンによるものでした。ワトソンはネズミの観察を行う中で、ネズミの意識を理解することはできないが、ネズミの行動を観察する中で、意識が積極的に機能したと言える行動を把握することはできると考えました。それは人についても同様で、心理学はいわば雲をつかむような意識を捉えることではなく、人間の示す行動を分析すれば良いと考えました。客観的には把握することができない「意識」を考察するのではなく、科学的な測定による「行動」についての分析が必要と考えたのです。
そこでワトソンは、心理学が他の自然科学と方法論を共有するためには、心理学は客観的な行動を対象とすべきであると主張しました。ワトソンの考える心理学の目的とは、行動の予測と制御であり、ワトソンは物理的な刺激と個体の全体的な活動の関係について研究をすすめていきました。
刺激=反応結合に作用する法則(S-R 理論)として、頻度の法則(いちばん頻繁に繰り返される行為が次の行為の系列でも出現しやすいという法則)と新近性の法則(最近に学習したものは、すでに学習したほかのものよりよく学習されるという法則)を挙げています。
ワトソンが主張した行動主義心理学は当時の心理学界に大きなインパクトを与えたと言われています。ワトソンの他に、行動主義心理学に力を入れていたのは、クラーク・ハル、エドワード・トールマン、エドウィン・ガスリー、バラス・スキナーなどがあげられます。彼らは行動理論を発展させていきました。行動した結果を記録・整理し刺激が原因とすることで、心理学を厳密な客観的な観察として判断する行動主義的心理学は、19世紀に主流であったココロの奥にある無意識や意識の世界に着目すること内観法とは大きく異なるアプローチであり、このことから、行動主義心理学は、今までの「哲学的」な心理学から、現在でも行われている「科学的」な心理学へ移り変わるきっかけとなったと言われています。
行動主義心理学の理論
ワトソンをはじめ、様々な学者たちが行動主義に基づいた実験を行い、理論を確立しました。行動に着目する行動主義心理学者は、実験環境を同じにすることを目的にした「実験法」と対象の行動を客観的に観察・記録をする「観察法」を用いることで、行動のメカニズムを解明しました。先ほどご紹介したS−R理論を含め、ワトソンらが様々な実験を行い定義を行った理論の一部を紹介します。
S−R理論
前述の通りS−R理論は、特定の刺激を与えその刺激に対して行動が引き起こされ、学習によって行動が変わるという理論です。Sは刺激(Stimulus)を意味し、Rは反応(Response)を意味します。S−R理論はロシアの生理学者であるイワン・パブロフの「条件反射説」に影響を受けたと言われています。パブロフの行った実験は「パブロフの犬」と呼ばれ言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。犬にベルの音を聞かせてから餌を与えるという行動を毎回繰り返し行なうことで、犬はベルの音を聞くだけで餌がもらえると思い、唾液を出すようなります。これはつまり犬に対しベルの音で唾液を垂らすという条件づけ、つまり条件反射が成功したということを示しています。この実験は、刺激を与えることで反応(行動)が引き起こされるというワトソンのS−R理論の基盤となるものでした。
オペラント条件づけ
ワトソンの行動主義に影響を受け、スキナーは「オペラント条件付け」という理論を提唱しました。スキナーの行動主義は徹底的行動主義と言われ、オペラント条件づけはその代表的な理論となりました。その内容は、エドワード・ソーンダイクの「試行錯誤学習」が元になっており、ある環境に対して自発的な行動をとる仕組みを説明しています。
スキナーが行なった実験は、次のようなものです。レバーを押すと餌が出てくる装置を設置し、装置にネズミを入れます。ここで、ネズミがたまたまレバーを押して餌を手に入れました。この経験を繰り返すうちに、ネズミは意図的に餌を得るためレバーを押すことを覚えた、という実験です。スキナーはこの実験の結果から、三項随伴性(ABC分析)という規則性を見出してネズミの行動を説明しました。三項随伴性は、Aの先行(Antecedent)・Bの行動(Behavior)・Cの結果(Consequence)として表されます。スキナーの実験に置き換えると、Aがレバーの目視、Bがレバーを押すこと、Cが餌の獲得に該当します。このとき、Cの結果はBの行動回数に影響されます。この規則性は、餌を得られるいいことにも何か悪いことが起こること両方に言えることであり、学習し行動の頻度に影響します。
行動主義心理学は行動療法へ
行動主義心理学による研究結果から得られた知見は、現代においても「行動療法」として利用されています。行動療法では、うつ病や統合失調症といった精神疾患を誘発・悪化させる行動を、条件付けによって抑え、改善に繋がる行動を条件付けによって促進しようとするアプローチです。行動療法はどのような刺激によって誤った行動が引き起こされているのかを見つけることから始まります。刺激と行動の関係を観察・分析し、行動療法の基盤には行動主義心理学の知見が利用されています。行動分析から行動の変容を促すことは患者の様々な症状の改善につながります。例えば、不安障害の患者でパニックになりやすい人の場合、パニックを促すような行動を変えることができればパニック発作も引き起こされにくくなります。また行動療法は、行動に関することなら様々な治療へ役立てることが可能と言われています。例えば禁煙指導やコミュニケーション能力の向上にも利用されています。
心理学には様々なアプローチ方法があります。中でも行動主義心理学は意識や感情を指標とせず、行動とその原因である刺激を指標とする方法であり、行動主義心理学の実験や行動療法は現在でも世界中で行われています。行動主義心理学の知見は行動療法に応用され、メンタル疾患を治療するために役立てられています。
様々なアプローチ方法について知ることは、健康な心を保つための助けとなるかもしれません。
記事 メンタルヘルスコンディショニング講座 講師・佐々木幹
コメント
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パブロフの犬は聞いたことがあったけど、行動主義心理学が行動療法という治療法?にまで活かされているとは知らなかったのでびっくりした。パニック障害や禁煙指導、コミュニケーション指導以外にも行動に関することで活かされていることはあるのかな。行動に関することならできるかもとのことで、今後の色々な病気にもうまくいかされていくと良いなあ。
ゆっこさん
投稿ありがとうございます。
悪い生活習慣などは、薬物療法より行動療法で対処したいですよね。
我々の行動のほとんどは、良い行動も悪い行動も、学習によって形づけられたものであるとの考えで、「不適応な行動」を適応なものに変容させる目的で学習的な行動を行うことが行動療法というようです。厚生労働省のHPに「肥満の行動療法」を例えて、図解で行動療法をわかりやすく解説してます。もしよろしければご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/08/dl/s0804-7i.pdf
ようは、「悪い習慣は直そうね」っていう事なんですが、それが簡単にできたら誰も苦労しないですよね。
パブロフの犬という言葉について調べているときに行動主義心理学という言葉が出てきて、なんだろうと思い調べていてここにたどり着きました。
ほかの方のコメントにある厚生労働省の「肥満の行動療法」読みました。
自分は肥満気味なのでちょっと耳が痛かった(?)ですが、確かに書いてあることはその通りだよな、、、という感じではありますね。分かりやすく解説されている例も教えていただきありがとうございました。
バンプさん
投稿ありがとうございます。
行動療法って難しく考えなくても、誰でもできることだと思うのですよね。
ただ、意志が弱くて継続しない(←私の場合)
楽しかったら何でも続くと思いますが、そうでなければ少しの障害っていうか、キッカケで止めちゃいますよね。
キーワードは「ルーティーン」でしょうか?
この時はかならずこれをする、とか、朝起きたら必ず・・・、夜寝る前には・・・
楽しい、楽しくない、関係なしです!
考えてみたら、朝晩の歯磨きやトイレでの手洗いもルーティーンですよね。