特定の状況や環境などにより、「胸がしめつけられる」「息が苦しい」「冷汗が出る」「体が震える」「めまいがする」「手足がしびれる」「頭痛がする」「眠れない」など、程度の大小はあると思いますが、似たような思いは誰しも経験したことがあるのではないでしょうか?これは、さまざまな『不安』を感じると起こる現象といえます。

不安は、精神医学的には「対象のない恐れの対象」と定義されており、恐れの対象がある『恐怖』と区別されています。不安には、いろいろな種類がありますが、「パニック障害」で典型的にみられる不安症状は、突然理由もなく強い不安に襲われ、胸がどきどきしたり、息苦しさを感じたりなど、身体症状も同時に襲ってきて、死んでしまうのではないかと思うようなこともあります。ただし、時間がたつと自然に消えてしまいます。これは「恐怖症」という不安障害の一種にあたります。
恐怖症には、高所恐怖症(高さに対する恐怖)や閉所恐怖症(閉ざされた場所に対する恐怖)が有名ですが、他にも動物恐怖症(通常はクモ,ヘビ,ネズミ)、雷恐怖症、飛行機恐怖症、13恐怖症(数字の13に関連するあらゆる物事に対する恐怖)、注射恐怖症等々。名称の与えられた恐怖症は500以上もあるそうです。

ここでは、閉所恐怖症についてお話ししたいと思います。

閉所恐怖症とは 原因 症状 治療 まとめ

閉所恐怖症とは


日本では「閉所恐怖症」という疾患名はポピュラーでよく知られています。閉所恐怖症の症状によって、MRIなどの検査を受けられないなどという話を聞いたことはないでしょうか。この他、閉所恐怖症に悩む人々の中には、エレベータやカプセルホテルのような狭い空間において激しいストレスを感じる、閉じ込められるような空間・環境において恐怖や不安を感じて、パニック発作を引き起こすなどという方もいるようです。

閉所に限らず、特定の動作や先端・高所など環境によるもの、特定の状況や対象に対して抱く恐怖を「限局性恐怖症」と言います。限局性恐怖症では、特定の状況・対象に対して恐怖や不安を抱くことで、パニック発作を引き起こします。閉所恐怖症は特に、狭くて逃げ場のない場所に対して極度の恐怖や緊張を感じます。閉所恐怖症に似たような疾患では、「広場恐怖症」などがあります。広場恐怖症は、古代ギリシャの集会場が広場であったという由来から来ており、人が多く密集するような逃げられない場所で、パニックを引き起こしてしまう疾患を言います。
参考:MEDマニュアル家庭版/不安症とストレス関連障害/広場恐怖症

閉ざされた空間や窮屈な場所に対して、過敏な反応を見せる恐怖症は閉所恐怖症や広場恐怖症などの他にも存在し、似通った恐怖症であると混同されがちですが、閉所恐怖症には特徴的なキーワードとして「閉塞感」があります。「閉塞感」におけるパニックや緊張により引き起こされる症状を主に閉所恐怖症と呼ぶのです。そして閉所恐怖症がすすむことで、日常生活に支障をきたす場合もあります。例えば、エレベータが利用できない、バスや電車に乗ることができないなどに悩む人もいます。

また、MRI検査(※)については、検査を行わないことは重大な病気や緊急性を伴う疾患の発見が遅れてしまうことにつながる場合もあるのです。程度の大小はあるものの一説によると閉所恐怖症など恐怖症が起きる確率は人口の1割ほど存在するといわれています。特に女性における罹患率(りかんりつ)は高く約13%、男性の4%と比較し実に3倍以上あり、生涯の中で女性の方が恐怖症にかかりやすいという特徴があるようです。次に症状が進行することで日常生活に支障をきたす可能性もある閉所恐怖症の原因について述べていきたいと思います。
※現在は、閉所恐怖症の方の負担を減らすオープン型のMRI検査も増えています。

閉所恐怖症の原因

恐怖症の原因は実に様々です。とはいえ、大きく大別することが可能です。恐怖症では、その原因を「恐怖体験」と「性格」に分けることができます。閉所恐怖症を発症する方の多くは、幼少期や大人になったあとに出会った恐怖体験のトラウマから症状を発症する方が多いようです。

「恐怖体験」とはどのようなものでしょう。例えば子供の頃に押入れや物置に閉じ込められた、溺れそうになったなどの経験がトラウマとなる場合も少なくありません。閉じ込められた空間、逃げ場のない恐怖を経験すると、心の奥底にまで恐怖に対する思いが根を張って、過剰なまでのストレスを抱くようになってしまう可能性もあります。また、大人になってからも、命の危険を感じるほどの経験をすると、それがトラウマとなり、閉所恐怖症になる場合もあるようです。スキューバーダイビング中に、酸素を供給されなくなったことで溺れかけた経験から、、閉所恐怖症になるなど、原因となる恐怖体験やトラウマは人によってそれぞれ異なります。

もう1つの閉所恐怖症の原因「性格」は、心配性、神経質といった特徴が強いほどなりやすいようです。また物事を否定的にとらえる気質もパニック症状を引き起こしやいと考えられています。
ではこういった原因から引き起こされる、閉所恐怖症の症状はどのようなものがあるのでしょうか。

閉所恐怖症の症状

閉所恐怖症の主な症状は、「パニック」です。逃げられないような狭い場所に閉じ込められることに対して、恐怖や緊張が高まってパニック症状が引き起こされます。パニック症状は、自律神経のバランスが乱れることで引き起こされるといわれています。めまいや吐き気、冷や汗、動悸、発汗、震えといった様々な症状が現れます。これらの症状が悪化すれば、過呼吸や意識消失といった症状を引き起こすこともあります。

メンタルヘルスコンディショニング講座:メインテキスト3<1章>:自律神経系の医学的な役割

ここで具体的な事例を1つあげたいと思います。
20代男性Aさんは、健康診断のため病院を訪れていました。検査の1つに、MRI検査があり、検査室へ入り台の上に寝て検査が開始されました。しばらくしてAさんが、胸が苦しくなって動悸を訴えました。一度検査を中断しドームから検査台を出すと、Aさんは大量の汗をかいて苦しそうにしていました。医師が今までにこうした経験があるかどうか尋ねると、エレベータが苦手であったり、フルフェイスのヘルメットがかぶれなかったりといった、いくつか症状を訴えました。結果Aさんは、閉所恐怖症と診断されました。Aさんは、今まで閉所恐怖症という自覚はありませんでしたが、初めての受けたMRI検査でパニック発作が引き起こされたのです。このように、症状が軽度の場合は、自分自身で閉所恐怖症の発症に気がつかないケースも少なくありません。
では、閉所恐怖症と診断された場合、どのような治療が行われるのでしょうか。また、治療には
どれくらいの時間が必要でしょうか。

閉所恐怖症の治療

閉所恐怖症の治療には時間がかかります。根気強く取り組まなくてはなりません。治療方法としては、「カウンセリング」と「暴露療法(ばくろりょうほう)」の2つのアプローチが有効とされています。カウンセリングでは、患者さんの閉所に対する恐怖の度合いや原因について探っていきます。そこから閉所に対する恐怖の認識や理解を進めていくことで、恐怖や不安への捉え方を変えることを目指していきます。

認知修正と並行して、閉所に慣れていくことも大切です。それが暴露療法というアプローチです。暴露療法は、閉所に対して少しずつ慣らしていく方法です。閉所に対する恐怖や不安の閾値(いきち/限界値)を下げていくことを目的としています。いきなり苦手な空間に飛び込むのではなく、徐々に近づいていき、達成していく。パニックに達するまでのハードルをあげていきます。暴露療法は、不安感・恐怖感が伴いますので、抗不安薬や精神安定薬の使用をしながら行うことが一般的なようです。患者の中には依存症になってしまうのではないかと危惧される方もいらっしゃいますが、信頼できる医師のもとで、医師の指示に従うのが有効でしょう。また、医療関係者以外にも、友人や家族の協力も有効です。身近な人々の支援は患者さんに安心感を与え、パニックを引き起こしにくくする効果があります。
参考:MEDマニュアル家庭版/パニック発作とパニック症/曝露療法とは?

まとめ

閉所恐怖症について、その原因や症状、治療法を紹介しました。閉所恐怖症の人口は一説によると人口の4%に影響を与えるという説もあるようです。そう考えると閉所恐怖症はかなりポピュラーな恐怖症であるといってもいいかもしれません。この記事を読んで、「もしかして自分は閉所恐怖症なのではないか」と心当たりがあった方がいらっしゃるかもしれません。しかし、閉所恐怖症に限らず恐怖症の原因とされる「不安」や「恐怖」というのは誰もが経験するものなので、気にしすぎない方が賢明だと言えます。ただし、エレベーターや電車などに息苦しさや激しい動悸を感じる方は、心療内科など医師に相談することをおススメします。恐怖症の治療は一朝一夕で完治するたぐいのものではないと聞いていますが、自分が恐怖症であると認識するだけでも状況は大きく改善する場合もあります。
閉所恐怖症以外にもメンタルヘルス不調の改善には、正しい知識が不可欠と言えます。

佐々木幹

佐々木幹メンタルヘルスコンディショナーⓇ

投稿者プロフィール

株式会社スマイルエデュケーション3代表取締役

大手民間スクールで約30年間スクール経営に携わり、販売マーケティングを皮切りに、商品開発室、教務室、学務室、通信教育センターの各部門責任者を歴任

現在は、自身が企画したメンタルヘルスコンディショニング通信講座の資格(メンタルヘルスコンディショナー)を取得し、「Live」「Love」「Smile」をかけ合わせた造語『LiLoveS』をコンセプトとしたハッピーライフカウンセリング協会と、学ぶすべての方の笑顔を目指すSmileCom(スマイルコム)のスクール運営を行う一方で、当サイト(メンタルヘルス情報サイト)の記事執筆を手掛けている。

メンタルヘルスコンディショニング講座はコチラ
https://smile-learn.com/product/

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コメント

    • とだちゃん
    • 2019年 4月 08日

    友人に病院とかには行ってないけど軽度の閉所恐怖症っぽいと言っている人がいて、たしかに一緒に閉塞感のある場所に行くとつらそうにしていてなるべくいかないようにしていたのですが、自分には何ができるのかと思い検索してました。
    まずは病院に行ってほしいですが、友人である自分は安心感を与えられるようにしておこうと思います。
    タメになりました。

    • 佐々木幹
      • 佐々木幹
      • 2019年 5月 21日

      とだちゃんさん

      投稿ありがとうございます。
      「軽度の閉所恐怖症のお友だちに安心感を与えられるようにしておこう!」とのコメントすばらしいです。
      友人や家族など身近な人の支援は、閉所恐怖症に限らずいろんな恐怖症を持つ方に対して安心感を与え、パニックを引き起こしにくくするので、とってもすばらしいです。ぜひ負担にならない程度に続けてあげてください。
      ちなみに私は高所恐怖症です(笑)。

    • kawai izumi
    • 2019年 5月 29日

    こんにちは、とても読み応えのある記事でした。
    私は今、閉所恐怖症の人口割合などを調べています。
    「一説によると閉所恐怖症など恐怖症が起きる確率は人口の1割ほど存在するといわれています。特に女性における罹患率(りかんりつ)は高く約13%、男性の4%と比較し実に3倍以上あり、生涯の中で女性の方が恐怖症にかかりやすいという特徴があるようです。」この文章はどちらから引用されましたか?
    または参考にした文献などを教えていただきたいです。

    • 佐々木幹
      • 佐々木幹
      • 2019年 5月 29日

      kawai izumiさん

      記事をお読み頂き、また投稿もしていただきありがとうございます。

      まず引用元ですが、記事中にもリンクを貼っているMEDマニュアル家庭版です。
      (MSDマニュアル家庭版/心の健康問題/不安症とストレス関連障害:https://msdmnls.co/2Q4R9fu)
      誤解される文章でしたでしょうか?閉所恐怖症の信用できる数字をみつけることができなかった(たぶん推測の数字しか世の中に出ていない?)ので、閉所恐怖症を含む「恐怖症」が起きる確率としての数字を記事に掲載させていただきました。次の文章で「時局性」という言葉を抜いたことが問題だったかもしれません。
      (記事中文章:12カ月の期間で調べると、限局性恐怖症は女性の約13%、男性の約4%で認められます。)

      おそらくkawai izumiさんも、次のサイトはご覧になられたことがあるのではないかと思います。
      http://good-old-days.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/post_556b.html
      執筆者情報などがわからなかったので、このサイトを引用して、このサイトに書かれている「国内には650万人~1,300万人の閉所恐怖症の人がいることに・・・」などの文章の引用は避けました。私が言いたかったのは、「閉所恐怖症の原因は不安や恐怖にあり、誰もが経験あることなので、閉所恐怖症だったとしてもあまり気にしすぎないように!」ということでしたので、MSDが公開している(限局性)恐怖症の数字だけで十分だと思った次第です。

      もし今後もお気づきの点等ありましたら、ご指摘・ご質問いただけるととてもうれしいです。

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