解離性健忘は、解離性障害のひとつです。解離性障害とは自分が自分であるという感覚がなくなる障害のことです。解離性健忘の場合、過去の出来事が思い出せなくなる記憶障害(記憶喪失)が症状として現れます。解離性健忘によって、本人が思い出せないことに苦しんだり、日常生活や社会生活に支障をきたしているようであれば、心療内科などの専門機関での治療が必要となります。

解離性健忘は、飲酒や脳損傷などで引き起こされる記憶障害とよく混在されがちです。飲酒や脳損傷による記憶障害は、脳がダメージを受けて記憶機能が低下することが原因で引き起こされます。他にも、解離性健忘は、認知症の記憶障害とも間違われやすいですが、認知症の記憶障害も脳の萎縮によって認知機能が低下することで記憶障害が引き起こされることが原因であり、解離性健忘とは一致しない記憶障害です。

それでは、具体的に引き起こされる原因や症状、治療についてなどを詳しくご紹介したいとおもいます。

解離性健忘の原因 解離性健忘の症状 解離性健忘の治療

解離性健忘の原因

解離性健忘が引き起こされる原因は、大きなストレスや心の傷といったメンタルヘルスを害した出来事にあります。つまり「トラウマ」「PTSD(心的外傷)」などで言われるところの強いショックです。人間は、外部からの攻撃に対して身を守ろうとします。解離性健忘の場合は、自分の心がストレスにさらされた時に、心の状態を保つためにストレスから自分を引き離し、記憶を思い出せないようにしている状態です。つまり、「自己防衛機制」というものが働くことによって記憶障害(記憶喪失)が引き起こされるのです。例えば、虐待やDVといった家庭内の暴力をはじめ、学校や職場で引き起こされるいじめも解離性健忘を引き起こすきっかけになります。こういった精神的苦痛から、自己の心を守ろうとして解離性健忘が引き起こされます。

実際に解離性健忘が起きる事例として多いのは、事故や事件がきっかけで引き起こされる場合です。近年では東日本大震災が起こりましたが、震災による様々なつらい出来事が原因で、急性ストレス障害ばかりでなく、解離性健忘を引き起こした方もいらっしゃったようです。また、戦争に由来するつらい経験なども解離性健忘を引き起こす原因のようで、世界中で多数の実例が報告されています。女性の場合は、強姦や痴漢といった性犯罪に巻き込まれた際に発症する事例などがあります。

世界中で活用されている医学情報源のMSDマニュアルでは、「健忘(記憶喪失)は,心理的に外傷的な体験やストレスに満ちた体験に耐えたり,目撃したりすること(例,身体的または性的虐待,レイプ,戦闘,集団殺害,自然災害,愛する人の死,経済的問題),または大きな内的葛藤(例,罪悪感を伴う衝動による混乱,明らかに解決不能な対人関係の問題,犯罪行動)により引き起こされると考えられる。」と論じています。
参照:マニュアル/プロフェッショナル版/精神障害/解離性健忘

ここまで、解離性健忘の原因について解説しました。ではこのような原因で引き起こされる記憶障害にはどのような特徴があるのでしょうか。

解離性健忘の症状

解離性健忘では、自分が関わった出来事について思い出せなくなる記憶障害いわゆる記憶喪失が主な症状として現れます。
・自分が誰なのか
・どこへ行ったか
・何をし、何を言い、何を考え、何を感じたか
思い出せない期間は、個人によってさまざまで、数分から数時間の出来事を忘れてしまうこともあれば、数日間から数年間の出来事を思い出せない場合もあります。なかには、人生に起こったできごとのすべてを忘れてしまうケースもあるようです。

また記憶障害によって、自分の記憶にないものの発見や身に覚えがない出来事の発見が続くと、不安感や恐怖を感じる人もいます。そうすると抑うつ状態になったり引きこもりがちになったりなど、悪循環に陥ることもあります。実際に解離性健忘を発症した方の体験には、次のような身に覚えのない出来事があったようです。
・携帯に入っている写真を見てもその時の記憶がない
・やりとりした記憶のないメールがある
・クローゼットの中に買った覚えのない服がある

一方、このような記憶障害を引き起こしていても本人が気づかない場合も存在します。体験した出来事自体を忘れているために、忘れていることに気づかないのです。この場合、不安や恐怖が引き起こる心配はありません。

大まかに症状についてお話ししましたが、以下に具体的な健忘の症状をご紹介します。

・限局性健忘
解離性健忘と診断される中で一番多いと言われています。ある特定期間に起こった出来事(虐待など)を思い出せないことが特徴です。

・選択的健忘
起こったできごとの一部は思い出せますが、その他は思い出せません。戦争を体験した兵士が、戦争体験の一部分しか思い出せずそれ以外のできごとを思い出せないといったケースが挙げられます。

・全般性健忘
人生における全ての記憶を忘れます。自分が今まで体験してきたこと、自分が習得した技能などもすべてを忘れて、自分が誰なのかさえも忘れてしまう場合もあるようです。

・系統的健忘
ある特定の人物や出来事だけ思い出せなくなってしまいます。例えば、家族・恋人などについての記憶が思い出せなくなってしまうことです。

・持続性健忘
ある出来事がきっかけで記憶を失った後から現在までの記憶も喪失します。新しいできごとが起こるたびに、そのできごとを忘れてしまうことが特徴です。

また、前述した医学情報源のMSDマニュアルでは、解離性健忘症状について次のようにも述べています。
「心的外傷後ストレス障害(PTSD)でみられるような、フラッシュバックを経験する人もいます。つまり、問題の出来事を実際に起こっているかのように再体験する一方、その後の経緯(例えば、トラウマ体験を生き延びたこと)は認識していません。フラッシュバックは、その発生中に起きたことについての健忘と入れ替わるように発生することがあります。解離性健忘患者の中には、後にPTSDを発症する人もおり、特に健忘の引き金となった外傷的出来事やストレスになる出来事を認識した際にそうなることが多くあります。」

このように、人によって引き起こされる記憶障害は様々です。重篤な症状の場合は早期に治療を検討
してください。

解離性健忘の治療

解離性健忘の治療には、医療機関での医師や臨床心理士などによる「心理療法」が有効だとされています。まずはカウンセリングや面接を通して、信頼関係を築くことからはじめ、次に、解離性健忘を発症した原因となったトラウマやストレスを理解します。そして、日常生活に支障をきたしている症状に対する解決方法を見出し、回避する方法も一緒に見出すようにしていきます。

心理療法の目的は、失った記憶を思い出させることではなく、本人が日常生活を送る上で支障をきたさず、安定した生活を送るようにすることです。辛い記憶を思い出したからといって、本人の問題が解決するわけではありませんから、解離性健忘であるということを理解して、安心感を与えることが治療では優先的に考えられています。この他、患者さんの状態が重篤化している場合は、精神安定薬といった薬物治療を利用して面接・カウンセリングをすることがあります。その際には、家族や周囲が協力してトラウマ体験を連想させるような場所や空間を避けたりなど、安心した生活ができる環境を作ることが有効です。

解離性健忘は、自分が関わった出来事について思い出せなくなる記憶障害(記憶喪失)です。つらい経験の記憶はふとした時に思い出される場合もありますし、思い出されないかもしれません。重要なことは、無理に思い出すことより、快適に過ごせる生活を手に入れることです。症状が重い場合には、周囲の誤ったサポートはかえって本人の負担になり、症状を悪化させる危険もありますので、心療内科など専門知識を持った人にアドバイスを仰ぎましょう。

佐々木幹

佐々木幹メンタルヘルスコンディショナーⓇ

投稿者プロフィール

株式会社スマイルエデュケーション3代表取締役
一般社団法人ハッピーライフカウンセリング協会代表理事

大手民間スクールで約30年間スクール経営に携わり、販売マーケティングを皮切りに、商品開発室、教務室、学務室、通信教育センターの各部門責任者を歴任

現在は、自身が企画したメンタルヘルスコンディショニング通信講座の資格(メンタルヘルスコンディショナー)を取得し、「Live」「Love」「Smile」をかけ合わせた造語『LiLoveS』をコンセプトとしたハッピーライフカウンセリング協会と、学ぶすべての方の笑顔を目指すSmileCom(スマイルコム)のスクール運営を行う一方で、当サイト(メンタルヘルス情報サイト)の記事執筆を手掛けている。

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https://smile-learn.com/product/

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コメント

    • 藤原
    • 2019年 5月 24日

    解離性健忘は初めて聞きましたが、症状はなんとなく知っていました。ドラマや漫画でも病名は出ないにしてもよくテーマになっているような気がします。
    過去のつらい出来事やトラウマから心を守るために忘れるなら、忘れたままで良いのではと読んでいて最初は感じたのですが、フラッシュバックなどでもう1度その経験を味わうことになるのはつらいですね。そういった過去を受け入れられれば良いですが、それも少しかわいそうではありますし、解離性健忘の人が快適に過ごせるようにするための環境づくりも大変そうだなと感じました。

    • 佐々木幹
      • 佐々木幹
      • 2019年 5月 24日

      藤原さん

      投稿ありがとうございます。
      藤原さんが言われているように「過去のつらい出来事やトラウマから心を守るために忘れるなら、忘れたままで良い」に私も賛成です。大切なのは今後の人生を幸せに歩んでいくことですから。
      また、環境づくりも、これまた藤原さんが感じられたように「大変」ですが、今よりもっともっと多くの人が正しいメンタルヘルスの知識を身につけることができたら、かなりの人が救われると思いますし、そのことがサポートする人の幸せとして跳ね返ってくると思います(←周りの人を幸せにすると、自分が幸せになれるというのは、宗教的だけでなく、医学的にも証明されています)。

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