アドラー心理学とは?

アドラー心理学は、心理学に詳しい方はもちろん、アドラー心理に関する書籍がロングセラーになったり、ドラマのテーマなどでも取り上げられたりしているため、一般の方も耳にする機会が増えてきています。心理学の3大巨頭と称されるアルフレッド・アドラーが提唱した心理学であり、欧米では個人心理学と呼ばれています。アドラー心理学という言葉は知っていても実際にどのような内容なのか、しっかりと理解している人は少ないのではないでしょうか。そもそもアドラー心理学とは何なのか?他の心理学とどのような違いがあり、どのように活かすことが出来るのかを交えて、少し考えていきたいと思います。

アドラー心理学って何? 他の心理学と何が違うのか アドラー心理学で活かせることとは

アドラー心理学って何?

アドラー心理学は、人間のことを自由意志をもつ主体的な存在として捉える立場であり、人間を全体として理解する、人間の直接的経験を重視する、個人の独自性を中心におく、など人間が主体的に決定しうる存在であることを強調したのが、アドラー心理学です。

その中でも最も重きを置いているのが目的論で、人は過去の出来事によって突き動かされて生きているのではなく、現在の目的を達成するために生きているという考え方です。過去のトラウマを否定する考え方でもあり、人生は常に自分で選択をすることができるものであり、これまでの人生において辛くて仕方のないことがあったとしても、過去とこれから未来をどう生きるかは無関係であると唱えています。この考え方は、自分の選択や気持ち次第で未来はいくらでも切り開いていけるというもので、「勇気」の心理学などとも呼ばれたりもしています。

アドラー心理学では、トラウマによる支配を否定した上で、「人間の悩みは、全て対人関係の悩みである」と断言。他者からどう思われるかは、自分にはコントロールできない「他者の課題」であり、自分の課題と他者の課題を切り離す「課題の分離」により対人関係の悩みから解き放たれることを説きます。他者から嫌われることを恐れない「嫌われる勇気」を持ちえたとき、人は初めて自分だけの人生を歩みはじめることができる。それがアドラー心理学の本質です。(引用:嫌われる勇気)ほとんどの方はご存知かと思いますし、検索すればすぐに出てくるのですが、100万部以上売れた(売れている)ダイヤモンド社の『嫌われる勇気』を念のためにご紹介しておきますね。

今起きていることの原因を考えるのではなく、今自分がしたいこと、そして何をするべきなのかを考えたうえで、行動として現実的に行うことができる方法を考える、という心理学なのです。日本人の場合、自分の想いや意見はあるのに、周りの目を気にしすぎて行動や発言を控えたり、遠慮する心が強すぎて自由に行動ができなかったりする人が多い、少なくとも外国人と比べればあきらかに多いと思います。だからこそ、それを覆(くつがえ)すアドラー心理学に注目が集まるのかもしれません。

他の心理学と何が違うのか

アドラー(Adler,A.:1870-1937)が比較されるのは、同じ時代に生きた、力動精神医学(りきどうせいしんいがく)の大きな潮流の中にいた深層心理学のフロイト(Freud,S.:1856-1939)と分析心理学のユング(Jung,C.G.:1870-1961)であり、この3者を心理学の3大巨頭(巨匠)などと称して、よく比較されています。

フロイトなどと比較する前に、ヴントの実験心理学に始まる心理学成立期の様々な潮流を理解して欲しいと思います。アドラー心理学は、ある日突然アドラーという天才が世に出てきて、生み出したわけではなく、「精神分析学」や「行動主義心理学」が生まれ育つ潮流の過程で、「人間性心理学」として生まれてきたものです。アドラーの理解がより進むと思いますので、ぜひ当サイトの「実験心理学とは」の記事もご参照ください。

実験心理学とは

最も注目されるアドラー心理学の特徴としては、悩みというものはすべて対人関係の悩みであるという考えのもと、根底からフロイト的な原因論を覆す、目的論の立場をとるところです。分かりやすい例としては、小さなときに感じたトラウマが原因となって社会で上手くやっていけないと考えるのがフロイトの原因論であり、社会で上手く周りの人と関わりたくないから、過去の嫌な記憶を持ち出して言い訳にしているのだ、と考えるのがアドラーの目的論です。

アドラー心理学が、そのほかの心理学と決定的に違う事は、他の心理学が現在から過去に向かって考えるが、アドラー心理学は、現在から未来に向かって考えるという点です。これからの未来を幸せに生きていくためにどのようにして自分の目的を達成していくのかを考え、行動に移していきます。自分自身の力で変化し、未来を切り開いていくというのがアドラー心理学の最も大切な部分です。

これまでのフロイトに代表される心理学のほとんどは、人間の行動の原因に何があるのかを探し、人間をいくつかのグループに分けて考え、環境の影響からは免れることができないと考えます。こういう心理学は、有名な数学者たちの科学思想をそのまま心理学にあてはめる考えを基礎にして成り立っています。一方でアドラーは、これらの伝統のある科学思想とは違って、新たな理論を構築した人間性心理学と呼ばれる1人目の心理学者と言えるでしょう。

周りの環境や人、過去に起きたこと、運などに縛られて、上手くいかないことが起きた時にそれらを持ち出して嫌なことから逃げてしまうのではなく、どのようなことがあったとしても言い訳せずに、原因を探さずに、いかにして目的を達成するのか、そのためには自分がどう行動
するべきなのかということを前向きに考えることを最も大切にしているという点も、アドラー心理学が他の心理学と違う点でもあります。

心理学というと、どうしても過去に起きたことや心の中を分析し、問題を排除することを目的としているように思われがちですし、実際カウンセリングなどではそのような手法が用いられることが、過去にはとても多かったです。そんな中で、自分の認識や考え方、選択次第で全てを変えることができる、ただ目的を達成するために前向きに行動していくことで幸せな人生を送ることが出来るというアドラー心理学は特別なものといえるかもしれません。

アドラー心理学で活かせることとは

数ある心理学の中でも、働く人々に役立つ心理学として注目されているのがアドラー心理学です。ビジネスで活かせる考え方としてまず、課題の分離があげられます。つまり自分で対処すべき課題と、自分ではコントロールすることができない他者の課題とを明確に分けるということです。職場に限らずですが、人間関係の問題は他者の課題に踏み込むことと自分の課題に踏み込まれることが原因となってひき起こりますが、そのようなミスコミュニケーションが起きた際などは、「他者はコントロールできない」と考えることで過度なストレスに悩まされることも減っていくと思います。

次に、周囲からの承認を求めないことです。人間は、周りの人からほめられたい、認められたいという欲求が非常に強いです。それは仕事の場面ではさらに顕著ですが、アドラー心理学ではそれを否定しています。周囲の人がどのような評価を下すのかは、自分の課題ではなく他者の課題です。仕事をすることを含め、私達は誰かに認めてもらい、評価してもらうために生きているわけではありません。そのように考えることができれば、より仕事を自分の目的の為に懸命に励むことが出来ますし、無駄なストレスを感じる必要がなくなります。この考え方には抵抗がある方もいらっしゃることでしょう。承認欲求はマズローの欲求階層が有名ですが、人が自然に持つ承認欲求をアドラーを好きになったからといって無理に「無理に承認を求めない」と強がることもないと思います。ただ、SNSのイイネの数を過度に気にして、イイネが少なければがっかりして落ち込み、自分の本音を偽りイイネを取りにいくようなことは、不毛なことのような気がします。

アドラー心理学の考え方は、現代のストレスが非常に多い環境の中で働く人々にとって、前向きに楽しく仕事に励み、人生を充実させる助けになるかもしれません。また、仕事以外でも生活に大きなストレスを感じて生きている方も多いと思います。そしてそのストレスの原因は、ほとんどの場合が対人関係にあります。アドラーも、全ての悩みは対人関係の悩みであると説いています。これを解決する1つの考え方としてアドラーは嫌われる勇気を持つということを示しています。自分の思うように行動し、それが正しいことであったとしても、それを見た人の中には必ず悪く言う人は居るものだ!とあらかじめ割り切っておくことです。

全ての人に認められ、全ての人に評価されるということはまずありません。全ての人に認められようとして、他者からの評価ばかりを気にして行動していると、強いストレスを感じ自由に生きることができなくなります。そのような人生はもはや自分の人生を生きているといえなくなってしまいます。自分の人生を自由に生きる、その目的のために自分はどう考え、どう行動すべきなのか、のような生き方ができれば、より楽しく充実した人生を送ることが出来るかもしれません。

また、ストレスを感じることが非常に多く、悩みを抱える人も多くいる現代社会においてアドラー心理学はとても有用な考え方かもわかりません。人々が感じるストレスの大半は対人関係から引き起こされるものですから、回りの人からの見られ方や評価を気にしすぎずに生きていく、人生は人のためにあるものではなく、自分のためにあるものだと考え行動することができれば、新しい人生の扉が開くかもわかりません。

アドラー心理学を実践することによって、周りの目や過去の出来事、周囲の環境などにばかり目を向けて生きるのではなく、自分の目的を考え、それを達成するためにどうすべきかを考え行動することで、より人生を楽しむことが出来るのではないでしょうか。「それができれば苦労はしない」と言う声が聞こえてきそうですが、過去の失敗をいつまでもくよくよしがちな人は、一度アドラー心理学を学び、自分と向き合ってみてはいかがでしょうか。

記事(初版 2017/6/6)  メンタルヘルスコンディショニング講座講師・佐々木幹

佐々木幹

佐々木幹メンタルヘルスコンディショナーⓇ

投稿者プロフィール

株式会社スマイルエデュケーション3代表取締役

大手民間スクールで約30年間スクール経営に携わり、販売マーケティングを皮切りに、商品開発室、教務室、学務室、通信教育センターの各部門責任者を歴任

現在は、自身が企画したメンタルヘルスコンディショニング通信講座の資格(メンタルヘルスコンディショナー)を取得し、「Live」「Love」「Smile」をかけ合わせた造語『LiLoveS』をコンセプトとしたハッピーライフカウンセリング協会と、学ぶすべての方の笑顔を目指すSmileCom(スマイルコム)のスクール運営を行う一方で、当サイト(メンタルヘルス情報サイト)の記事執筆を手掛けている。

メンタルヘルスコンディショニング講座はコチラ
https://smile-learn.com/product/

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コメント

    • もも
    • 2019年 4月 10日

    アドラー心理学って最近よく聞くけどどんな心理学なんだろうと思ってたけど
    この記事を読んでわかりやすく書いてあったので理解することができてよかった

    • 佐々木幹
      • 佐々木幹
      • 2019年 6月 17日

      ももさん

      投稿ありがとうございます。
      そして「わかりやすい」と言っていただき感激です。
      アドラーの「すべての悩みは対人関係の悩みである」という言葉は、「イイネをしたのに返してくれない」とか「既読スルーされた」等々SNSで便利になった反面、心のどこかで疲れを感じていた日本人の心を癒してくれたかもしれないですね。

    • ヤマキ
    • 2019年 9月 05日

    自分は嫌われる勇気がなく、後輩を怒らなくてはいけない立場になったときも嫌われたくなくてできないタイプです。
    また、他人の目もすごく気になるので無意識的に対人関係でストレスを感じているのかもしれません。
    「嫌われる勇気」という本自体は聞いたことがありましたが読んだことはないので、一度読んでみようと思います。

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